“Mad At Disney”アートワーク

私はディズニーに怒っている! 話題のTikTokヒット“Mad At Disney”

ユーザーが思い思いのショート・ビデオを投稿するプラットフォーム……なんてカタい説明はもはや不要? 全世界で月に8億人が利用しているというTikTokは日本でも10代を中心に利用者が急増中。TwitterやInstagramと並ぶ定番のSNSになっている。

TikTokで重要なのは音楽だ。近年、音楽シーンもTikTok抜きには語れない状況になっており、“香水”によって成功を手にした日本の瑛人のように数々のヒット・ソングと新たな才能がTikTokから登場している。

数あるTikTokヒットのなかでもひときわポップでユニークな曲が今年8月に話題を呼んだ。セイレム・イリースの“Mad At Disney”だ。

“Mad At Disney”の日本語訳詞のリリック・ビデオ

〈私はディズニーに怒っている〉。

衝撃的でキャッチーなフレーズを持つこの曲は、TikTokに投稿されるやいなや若い女性たちを中心に共感を呼び、大きなバズを生んでいる。“Mad At Disney”を使ったTikTok動画は290万も投稿され、Spotifyでは世界で7,200万回以上再生される大ヒット・ソングになった

※TikTokの動画数とSpotifyでの再生回数は、いずれも2020年10月現在のもの

この記事では、そんな“Mad At Disney”を作り出した新たな才能、セイレム・イリースの魅力に迫る。彼女は何者なのか? どうして彼女はディズニーに怒っているのか? そこに込められたとても現代的なメッセージとは?

彼女自身の言葉を引用しながら、5つのポイントから見ていこう。

 

1. 幼い頃から音楽に夢中だった少女

セイレム・イリースは米カリフォルニアのミル・ヴァレーに生まれた。

「歌を歌いはじめたのは4歳くらいから。ぬいぐるみについてや、好きな子についてよく歌っていたの。初めてきちんとした作曲の授業を受けたのは9歳のとき」。

「幼い頃から音楽に夢中」だったというイリースは、12歳になる頃には作詞作曲の師にその才能を認められる。そして、ボストンに移って本格的に音楽を学ぶことに。

「バークリー音楽大学に2年通って、作詞作曲やパフォーマンス、プロデュースなどについて勉強したわ。その後、プロを目指してLAへと移住した」。

「LAに来ても仕事がなくて困ってしまう状態に陥るのが怖かった」という彼女は、週末も惜しまず働くうち、すこしずつ自作曲への反応から手ごたえを感じていった。

2018年のシングル“Awake”

 

2. プロのソングライターでDIYなミュージシャン

自室で作曲からレコーディング、リリースまで完結できるいま、アマチュアとプロフェッショナルとの間の壁はなくなりつつある。その一方で、幼い頃から音楽を学んできたミュージシャンが技術や知識をポップ・フィールドで発揮していることも、現代の音楽シーンの特徴のひとつだ(たとえば、日本では東京藝術大学に在籍していたKing Gnuの常田大希やドラマーの石若駿らが活躍している)。

イリースもそんな音楽家のひとり。とても自然体のシンガーに見える彼女は、上に書いたように作曲のプロだ。イリースはどうやってあのキラキラとした楽曲を生み出しているのだろう?

「まずはコンセプトやタイトルから考えるの。書きはじめる前に、どんな曲にしたいか大体の構想を頭のなかで練っておく。しっかり構想ができれば、あとは歌詞が勝手に生まれてくる感じ」。

と同時に、「曲作りを毎日欠かさず続け」ているというイリースは現代的なDIYミュージシャンでもある。「自粛期間中も寝室で曲を作ったり、クローゼットでレコーディングしたりしていた」のだとか。

「自分の声はやはり自分で録りたいの。けっこう拘りが強い方なのよね。だから自分でやるほうが上手くいくようなの」。

音楽について学んだことを活かしながら、湧き上がるイメージから楽曲を生み、DIYで完成させる。そういったところが彼女の音楽家としての魅力になっている。

 

3. ビートルズ、ボウイ、ロードが大好き

「両親がよく聴いていたビートルズやデヴィッド・ボウイからもすごく影響を受けているの」。

たしかに、イリースが生む楽曲はビートルズやボウイが作ってきた〈3分間のポップソング〉の伝統に連なっている。

さらに、「まずロードが大好き。最高」と語るように、彼女は現代のシンガー・ソングライターとしてロードに通じる作家だ。いまの時代を生きる女性のリアルな感情を洗練されたポップ・サウンドに乗せて歌うロードとイリースとは、共有するものも多いだろう。

ロードの2017年作『Melodrama』収録曲“Green Light”

他にフェイヴァリットとして、アレクサンダー23、キラーズの“Mr. Brightside”、ノラ・ジョーンズ、サーシャ・スローン、アレック・ベンジャミンを挙げている。21世紀のポップの作家たち、特にSSWを強く意識しているようだ。