ドイツのソプラノ、カルクの素晴らしさを享受したのはウィグモア2012年ライヴだった。独仏歌曲を織り交ぜたその鮮やかなコントラスト。さかのぼってのソロ・アルバム、ソリストやオペラでの歌唱、どれも実に卓抜で、理知的なアプローチと豊かな歌心の発露が印象的。その彼女が録音したマーラー・アルバムは期待に違わぬ秀逸作だ。“私はこの世に忘れられ”で醸し出される玄妙な美。マーラーがヴェルデ・ミニョンのピアノ・ロールに録音した自作4曲のうちの2曲の音源に乗せての歌唱は、実に興味深い試み。第4交響曲終楽章での古風なテンポの揺らしにもカルクが巧緻に対応し、楽曲から独特の味わいが生まれた。