〈韓国の怪物〉キム・ギヨンの傑作集が待望のソフト化! 世界よありがとう!
1919年生まれキム・ギヨンがとんでもない監督であることが世界で〈発見〉されて30年近く経とうとしている。ポン・ジュノが自作「パラサイト 半地下の家族」でキム・ギヨン「下女」を下敷きしたことがソフト化の契機となったのであれば、アカデミー賞受賞の意味もあったものだと失言してしまいたい。「下女」「玄界灘は知っている」「高麗葬」「水女」「火女’82」 「死んでもいい経験」6作品がBOX化(「下女」のみ単品発売も)は快挙である。
キム・ギヨンは、55年「屍の箱」でのデビューから30本を超えるエゴ剥き出しの人間を撮った〈韓国の怪物〉という異名を持つ監督である(天才や巨匠より怪物という冠が一番しっくりくる)。作風的にはブニュエルやシュトロハイムあたりが好きな方なら間違いのない面白さであるとまずは断言したい。
初めての方には、まずは代表作「下女」をオススメしたい。楳図かずおの漫画に出てきそうな顔の家政婦が幸福なブルジョア家庭を地獄のどん底に突き落とす古典的な主従逆転劇。ゴツンゴツンと音を立てての階段シーン(詳しくは実際に見てください!)のギャグすれすれのおぞましい名場面には痺れるほかない。エグ味もあるが、万人が見て間違いなく楽しめる破格のエンタメ映画である。
その意味で「下女」は、キム・ギヨンにしては比較的〈マトモ〉な映画だと言えるかもしれない。「下女」で〈マトモ〉というのが〈怪物〉の恐ろしさだ。いやいや、太平洋戦争下の朝鮮人青年の映画(『玄界灘は知っている』)ならさすがに〈マトモ〉でしょくらいの見積もりで見てみると、衝撃のラスト(詳しくは言えません! すごい!)に仰け反ることとなる。〈トンデモ展開〉のみで成立している「火曜サスペンス劇場」ともいうべき遺作「死んでもいい経験」に至っては、トびすぎて頭が真っ白になるはずだ。
強烈な毒っ気と奇天烈な物語に唖然・呆然・爆笑・感動が同時に訪れるキム・ギヨン宇宙! 唯一無二の作品とソフト化の奇跡に、ただただ「世界よありがとう!」と叫ぼうではないか。