コラム

リチャード&ミカ・ストルツマン(Richard & Mika Stoltzman)、クラリネットとマリンバで対話する夫妻の多彩な芸術を来日公演で堪能

限りなく多様性を増すストルツマン夫妻の芸術

 グラミー賞受賞者でもあるクラリネットの名手リチャードと、ジャンルの壁を超えて世界的な活動を展開するマリンバ奏者ミカのストルツマン夫妻が、昨年発表した最新作『パリンプセスト~マリンバとクラリネットのための作品集』を引っ提げて、来年2月に来日公演を行う。ふたりは2017年にジャズとクラシックの両方の要素を盛り込んだ『デュオ・カンタンド』を発表しているが、続編となるプロジェクトでは両者を分けようということで、エディ・ゴメスやスティーヴ・ガッドなどの強力なメンバーを迎えたジャズ系の『タペレバ』とクラシック系の『パリンプセスト』という、2枚のアルバムが誕生した。『パリンプセスト』ではバッハを中心に、ふたりがよく演奏するピアソラや、ラヴェルの“亡き王女のためのパヴァーヌ”といった既存の作品に加えて、ふたりの親しい友人でもある作曲家に委嘱した作品が取り上げられている。

 バッハの1曲目は“半音階的幻想曲とフーガ”で、幻想曲はクラリネットのソロ、フーガはクラリネットとマリンバに加えて、タンゴの本場アルゼンチンのエクトル・デル・クルトがバンドネオンで参加している。エクトルはピアソラ本人との共演歴もあり、2018年にはパブロ・ジーグラー・トリオのメンバーとしてグラミー賞も受賞している。バッハの時代には存在していなかった3台の楽器の対照的な音色のおかげで、フーガを構成するそれぞれの声部がくっきりと浮かび上がっている。2曲目はマリンバのソロによる“シャコンヌ”で、ミカがここ2年来心血を注いで取り組んできたレパートリーでもあり、演奏するたびに新しい世界へと誘ってくれるという。

 タイトル通りブルース・スケールを多用した委嘱作“モストリー・ブルース”は、1964年にイェール大学で知り合って以来のリチャードの親友だったウィリアム・トーマス・マッキンリーの作品である。もともとは演奏時間2、3分の小品ということで委嘱したが、作っているうちに次から次へとアイディアが浮かび、最終的には22曲の小品が出来上がったという。タイトル曲の“パリンプセスト”は、カーネギーホールで行われたリチャードの生誕75周年記念コンサートで初演された委嘱作である。1990年前後に日本に住んでいたこともある作曲者のジョン・ゾーンは、リチャードも創立メンバーだった伝説のカルテット、タッシの大ファンで、タッシがもともとメシアンの“世の終わりのための四重奏曲”を演奏するために結成されたことに因んだのか、メシアンの曲を思わせるようなモティーフが随所に出てくるところがおもしろい。

 バッハ以外の既存曲は、ふたりのコンサートではここ10年ほど定番曲となっているラヴェルの“亡き王女のためのパヴァーヌ”と、ピアソラの“タンゴ・エチュード第5番”と“フーガと神秘”である。ジャズに通じる部分が多い作曲家でもあるラヴェルの曲は、中間部にインプロヴィゼイションのパートが挿入されている。クラリネットのソロによる“エチュード”はもともとバイオリンのための曲だが、リチャードがコンチェルトで共演したあるオーケストラのコンサートマスターが、ギドン・クレーメルがアンコールでこの曲を弾いたのを聴いて感動し、リチャードにもクラリネットで演奏するように勧めたという。“フーガと神秘”は前述のエクトルと、自らもタンゴ・オーケストラを率い、グラミー賞も獲得したペドロ・ヒラウドのコントラバスを加えたカルテットで演奏される。タンゴのエキスパートによるリズムと起伏のある感情表現が印象的で、アルバムの最後を飾るのに相応しい演奏となっている。

 2月の来日公演では、ミカが近年本格的に取り組んでいるバッハの作品や、『パリンプセスト』発表後に書かれた新作などを披露する予定である。即興的な部分や演奏する度に新鮮な解釈が加えられるレパートリーもあるので、ふたりの音楽が2018年のアルバム録音時からどう進化しているかにも注目したい。

 


Mika Stolzman (ミカ・ストルツマン)
クラシックとジャズを縦横無尽に操る、ニュー・ジャンルのマリンバ奏者。 これまでに10回に渡るニューヨーク・カーネギーホールでのリサイタル成功を収める。S.ライヒ、C.コリア、S.ガッドとのコラボレーションなどでも知られ、現在は各地での音楽祭への招聘演奏などを含め、世界22カ国66都市以上で公演中。

 


Richard Stolzman (リチャード・ストルツマン)
数多くのオーケストラとの共演を重ねるソリスト、革新的なジャズ奏者、 多作なレコーディング・アーティストとして様々なジャンルの批評家から 圧倒的な支持を受ける。リチャード・グードとの共演で録音したブラー ムスのソナタ、ヨーヨー・マとエマニュエル・アックスと行ったモーツァ ルト、ベートーヴェン、ブラームスの三重奏曲集で、2 度グラミー賞を受賞。

 


LIVE INFORMATION

マリンバ・リサイタル
○2021年2月27日(土)18:00開演
【出演】ミカ・ストルツマン(marimba)ゲスト:リチャード・ストルツマン(cl)
【会場】王子ホール(東京)
【曲目】
J.S.バッハ(Mika Stoltzman編曲):シャコンヌ~無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番より
J.S.バッハ(Mika Stoltzman編曲):無伴奏チェロ組曲 第3番
ブラームス(布施威編曲):インテルメッツォ イ長調Op.118-2
ジョン・ゾーン:ANIMA 2020~ザ・ワクシング・ライト~(世界初演)
チック・コリア:バースデイ・ソング・フォーMika 2019(委嘱日本初演)
ジョエル・ロス:パルス・ウェーヴ 2020(委嘱新作世界初演)
ビートルズ{レノン=マッカートニー}(挟間美帆編曲):ミッシェル(委嘱世界初演)
キース・ジャレット(布施威編曲):オーヴァー・ザ・レインボウ 1984 Tokyo 他

www.aspen.jp/concert/

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