2枚の新譜で表現した、人との縁を大切に積み重ねてきた〈今〉
演奏家として成長し続けることがどれほど難しいことか、年齢を重ねるほど実感する機会が増えた。若手のうちに出来る限りステップを駆け上がり、仕事をこなしていくまではよいのだが、中堅以降の世代になってから演奏家――特にソリストとしてのキャリアアップを図るのは生半可なことではない。だからこそミカ・ストルツマンの歩みは本当に驚異的である。彼女の強みは、出来ない言い訳をしないこと。そして人との縁を大事に繋いできたことだ。
新譜のメインディッシュとなる、挾間美帆がミカのために書き下ろした協奏曲も縁の繋がりから生まれた作品といえる。
「昔からアレンジなどをお願いしていた丸山和範さんをピアニストとしてニューヨークにお招きした2018年、丸山さんが弟子である挾間さんを紹介してくれたのが出会いでした。それから少しして、彼女のアルバムを聴いたとき、音楽からオリジナリティのあるヴォイスが聴こえてきてとても感銘を受けたんです。それですぐに作品を委嘱しました。挾間さんがグラミー賞にノミネート(2019年11月)される、ちょっと前ぐらいでしたね」
委嘱から録音に至るまでのやり取りも、実に興味深い。
「マリンバ・コンチェルトなんですけど、私の夫であるリチャード・ストルツマンのクラリネットをサブソリストにして、ドラムスもスティーヴ・ガッドを想定して入れてほしいとお願いしました。ドラムスがいるならベースも入れたいと挾間さんがおっしゃったので、エディ・ゴメスにお願いしました。挾間さんが素晴らしいのは演奏者のスタイルを尊重してくれることで、リチャードの魅力が活きる第2楽章をつくってくれて本当に嬉しかったですね。実際に演奏してみると彼らも、ボストン交響楽団のメンバーも、皆この曲を気に入ってくれましたし、成功したかなと思いました」
ミカのプロジェクトが成功に導かれるのは、緻密な準備の積み重ねによって関わった人々も幸せな気持ちになれるからなのではないか。金銭的な見返りだけでは得られない、充実した時間がもたらされるからこそ彼女は信頼されるのだ。ジョン・ゾーンがこのアルバムのために書き下ろした新曲“ブレスターン”にまつわるエピソードも、ミカがどれほど仲間を大事にしているかが伝わってくる。
「2部構成の曲で、もちろん全部録音したんですけど、前半だけの方が流れがいいんじゃないかとジョンさんがおっしゃられて、第1部だけアルバムに収めました。本当は第2部がマリンバの見せ場だったんですけどね(笑)」
この“ブレスターン”では夫リチャードの長年の盟友である偉大なチェリスト フレッド・シェリーのソロも聴きどころだ。アルバムには他にミカが長年にわたって向き合ってきた最重要レパートリー、J. S. バッハ“シャコンヌ”やドビュッシー“夢想”が、マリンバ&弦楽合奏という新たなサウンドで収録されている。
「バッハを詣でに何回かライプツィヒに行ったんですけど、その時に同じくこの街と関わりが深いメンデルスゾーンの偉大さにも気付くようになりました。彼がシャコンヌにピアノ伴奏をつけているので、それを弦楽器に写したらマリンバと合うんじゃないかなって思ったんです。ドビュッシーは、まだマリンバ奏者が弦楽とやっていなさそうな曲として選びました。フレッドが教えてくれた自作自演の録音がとても大胆で、演奏に役立ちましたね」
曲目だけ眺めると不思議な組み合わせだが、考え抜かれた演奏でアルバムとして通して聴く意味、そして価値のある仕上がり。是非とも多くの人に聴かれてほしい。
Mika Stoltzman
クラシックとジャズを縦横無尽に操る、ニュー・ジャンルのマリンバ奏者。 これまでに10回に渡るニューヨーク・カーネギーホールでのリサイタル成功を収める。S. ライヒ、C. コリア、S. ガッドとのコラボレーションなどでも知られ、現在は各地での音楽祭への招聘演奏などを含め、世界22カ国66都市以上で公演中。
