音楽は一つではない。それぞれの音楽がある。耳の数だけ音楽があり、一つの音楽はあらゆる耳を結びつける媒体。このことをこの本を読んで改めて感じる。作曲家メシアンの音楽の教えがどのようなものであったのか、生徒への取材、記録をたどり明らかにしたこの大著を読んで君の得たものはそれだけだったのかと諭されそうだ。だが人の耳が聞き取っていることを他人は共有することができない、この真実こそがこの本の存在理由であることは疑いようもない。メシアンがどのように音楽を聴き取っているのかという疑問、またメシアン自身のどうしてそんな風に音楽を聴くのかという疑問との間に教育という対話が生まれたのだから。