大バッハの音楽世界はまさに〈マクロコスモス〉。いくつもの宇宙が折り畳まれ、重層的に生成され連関するスケールと深度を“平均律”は象徴する。〈音楽に関する知の書〉としての“平均律”を解読する本書が、将来刊行されるであろうII《第2巻》と共に、音楽家や愛好家に示唆するパースペクティヴの可能性は極めて本質的だ。〈序論〉を置き、〈楽曲分析〉と分析の要諦を落し込んだ〈分析楽譜〉から成る簡明な構成。その中に注意深く精選され記述されたテクストの鋭さ、明解さは、定義であり、箴言であり、バッハの作曲工房へいざなうアルケオロジーの実践である。そしてそれら行間に立ち昇るクオリアの豊かさ。
小鍛冶邦隆「バッハ「平均律」解読(I)《平均律クラヴィーア曲集 第1巻》全24曲」楽曲~楽譜の分析から成る簡明な構成、音楽の知を鋭いテクストで解き明かす
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