「ポルトガル語には英語や他の言語では表せない、洗練された豊かさがあるんだ」

 2009年に颯爽と登場したサンパウロ在住のシンガー・ソングライター、ホドリゴ・デル・アルク。デビュー作『カインド・オブ・ボッサ』は、まるでネオアコのようなメロディアスでポップな快作だったが、とりわけ全曲英語で歌われていたのが印象的だった。しかし、5年間の沈黙を経て再登場した彼の音楽は、前回のイメージを覆す新しい感覚に満ち溢れている。まさに、タイトル『ニュー・エアー』が示す通りなのだ。

 「他で見たことも聴いたこともないようなものにしたかったし、自分自身常に新しくありたいと感じている。未来を見据えるミュージシャンのひとりとして、ブラジル音楽の古典的な潮流を、インターナショナル・ミュージックの大きなうねりに融合させたかった」

RODRIGO DEL ARC 『ニュー・エアー』 Rodrigo Del Arc/コアポート(2014)

 今作の特徴は、なんといっても大半の楽曲をポルトガル語で歌っていることだろう。言葉ががらりと変わることで、彼の歌い口やメロディの起伏までもが変化し、彼の新しい魅力を導き出しているのだ。

 「ポルトガル語の言葉は、とても豊かで洗練されていて成熟している。そして、その多くは英語や他の言語へ直訳できる言葉がないんだ。例えば“サウダージ”は、感情の深い部分でにおけるノスタルジックな気持ちや、今ここにいない愛する者を心の底から想うメランコリックな気持ちのこと。こういった言葉が、より深い心の襞に触れられるよう助けてくれている」

 もうひとつの特徴は、内省的な印象の強かった前作に比べ、躍動的なバンド・サンドをメインにしていること。そのため、大きく外に向けて広がっているように感じられる。サポートを20代の若き実力者で固めていることも、フレッシュな感覚に満ちている要因のひとつ。また、ボサノヴァだけでなく、サンバ、バイアォン、マラカトゥといった土着的なリズムを数多く取り入れていることもサウンド面の重要な部分といえる。

 「前作はミニマリストの概念に影響されたけれど、今回はドラムとギターが前面に出ている。ブラジルは多民族国家でいろんな文化がブレンドされているから、伝統的なブラジリアン・ルーツと、ユニバーサルなポップのアプローチは、無理なく一緒に存在できるんだ。イジェシャーというリズムも2曲で使っていて、ライヴでこのビートを奏でると催眠状態に陥る人がいる。それは、本当に素晴らしく不思議な体験だよ」

 前作でも見せてくれた持ち前のグローバルなポップ感覚は健在。その上でブラジルならではの伝統的な言葉とリズムが加わり、洗練されたコスモポリタン音楽を生み出している。今現在、ブラジル音楽シーンは非常に活性化しているが、その一端を垣間見るにはまたとない才能のひとりであることはたしかだ。