きっかけはご多分に漏れず、大きな話題になった〈ライネク〉=“RIGHT NEXT TO YOU”だった。あの曲を聴いたときの衝撃といったらなかった。まさに、〈#セクゾのライネク半端ねぇ〉。
まず、このレビューを書いている私は、Sexy Zoneの従来からのファンであるどころか、まったくの、〈ど〉が付くほどの素人・初心者・入門者であることを最初にお断りしておく。音楽評論家やライターたちが“RIGHT NEXT TO YOU”で今更Sexy Zoneの魅力に気づいた、遅すぎる、という感想を綴ったブログ記事も見かけたので、セクラバのみなさまには申し訳ない限りだけれど……。10年の積み重ねがあり、その先にこの“RIGHT NEXT TO YOU”があるのだ、と多くのファンが語っており、その凄みをいま初心者の私は噛みしめている。
いや、それでも“RIGHT NEXT TO YOU”は、どうしても語りたくなってしまうほどに強力で魅力的な、とにかく心躍る曲だ。
“RIGHT NEXT TO YOU”をYouTubeで聴いた私は、〈これはCDを手に入れて聴き込むしかない!〉と思い、フラゲ日に『SZ10TH』をタワーレコードへと買いに走ったのが2週間前のこと。その後、もう何回聴いたかわからないほどだ。
YouTubeでミュージック・ビデオが公開されてからというもの、“RIGHT NEXT TO YOU”についてはすでにノイ村、小鉄昇一郎、imdkmといった書き手たちによって、各音楽メディアで論じられている。すべてが“RIGHT NEXT TO YOU”のみにフォーカスしたものではないが、一曲を巡ってこれだけの記事が書かれるということはなかなかない。それだけ〈ライネク〉が従来のファンダムから広がって、たくさんの聴き手が惹きつけられている、セクゾに魅了されている証拠だろう。
さて。“RIGHT NEXT TO YOU”の肝は、2ステップ/UKガラージ風のつんのめったビートだ。またピアノが効いていて、低音部を強調したパーカッシヴなピアノのフレーズがビートと絡み合うさまは、いかにもダンス・ミュージック的。そして、ビートが後景に退く伸びやかなビルドアップ(1番では0:45~、歌詞でいうと〈Girl if you give me a chance...〉の部分)から、音数がぐっと絞られて4つ打ちのキックと太いベースがユニゾンするドロップ=サビへの展開は鳥肌ものだ。それと、イントロの埃っぽいクラッキング・ノイズや曲中のサウンド・エフェクトからは、孤高のダブステップ・プロデューサー、ブリアルへのオマージュを感じるが……それは考えすぎだろうか。
〈ライネク〉を聴いて思い出したのは、2ステップのビートを用いたm-floのクラシック“come again”(2001年)だった。クレイグ・デイヴィッドなどがヒットしていた同時代のUKダンス・ミュージック・シーンを意識した“come again”について、☆Taku Takahashiは「日本の歌謡曲の方程式を無視してつくった曲です」と挑発的な言葉を残している。歌謡曲ないしJ-Popのロジックに則らなかったからこそ、逆説的に“come again”はJ-Popの名曲としていまもフレッシュに響く。
☆Taku Takahashiの言葉は、そのまま“RIGHT NEXT TO YOU”にも当てはまるだろう。歌謡曲的、J-Pop的なところが一切ない代わりに、“RIGHT NEXT TO YOU”はグローバルなダンス・ポップに仕上がっている。たしかにK-Popを意識しているところもあるのだろう。けれども、研ぎ澄まされたサウンド・プロダクションの上で、全編滑らかな英語詞によって歌われていることで、ジャンルや国籍性はほとんど意識されない(これがまた、〈今回はあえて英語で歌ってみた〉という不自然なものではなく、ナチュラルな歌いっぷりなのが彼らのパフォーマーとしての実力の高さを伝えている)。
それに、ただチャレンジングな音作りに頼っただけの曲ではなく、Sexy Zoneの(活動休止中のマリウス葉を除く)4人のヴォーカル・パフォーマンスが素晴らしいところが、この曲を魅力的なものにしている。
たとえば、イントロの中島健人による〈Yeah, baby〉というつぶやき(ラップの用語でいうと〈アド・リブ〉だろう)の、たまらないセクシーさ。あるいは1番の、低声を活かした菊池風磨によるアグレッシヴなラップから突然、甘く伸びやかな中島健人の歌へ切り替わったときの、ギャップがもたらす驚き。極めつきはドロップ=サビで、ここでは〈I’m〉という歌詞の文頭のフレーズが区切られており、1番では松島聡が、2番では佐藤勝利がその部分を歌う――というよりも、ため息混じりにつぶやく。ここが強烈で、低く吐き出すような発声の松島と、かすれた声で耳打ちするような佐藤と、2人のヴォーカリゼーションの差異もおもしろい。
そういった〈歌割り〉の妙、鍛え上げられた4人のヴォーカリストの個性や声の質感の違いを存分に活かした目まぐるしい展開こそが、“RIGHT NEXT TO YOU”の素晴らしさだ。たとえばこれがインストゥルメンタルだったり、他の歌手が歌ったりしたら、魅力は10,000分の1くらいになってしまうだろう。Sexy Zoneが歌っているからこそ魅力的な〈ライネク〉なのだと思う。
と、ついつい“RIGHT NEXT TO YOU”のことばかりを語ってしまったが、『SZ10TH』は、デビュー・シングル“Sexy Zone”(2011年)から“NOT FOUND”(2020年)までのシングルを網羅した、結成およびデビューから10周年を記念するアルバムだ。1曲目から聴いていくことで、挑戦的な“RIGHT NEXT TO YOU”に至るまでの5人のパフォーマーとしての進化/深化の過程を追体験できる。またそのプロセスで、ブリージンなディスコ・ポップ“カラフル Eyes”“すっぴんKISS”やフューチャリスティックなファンク“ROCK THA TOWN”、ホーン・セクションの活躍がご機嫌な“カラクリだらけのテンダネス”“NOT FOUND”など、優れたポップソングの数々に引き込まれていく。“RIGHT NEXT TO YOU”と爽やかな“Change the world”という新曲2曲で締め括られる構成も感動的だ。
“RIGHT NEXT TO YOU”と同時期に話題になったBALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBEの“Animal”やレゲトンに挑んだSixTONESの“Bella”など、J-Popのサウンドにはいま何かしらの変革が起こっているように感じる。『SZ10TH』は、Sexy Zoneの10年の歩みを伝える作品であるとともに、そんなJ-Popのわくわくする最前線のレポートとしても聴ける。ファンキーでダンサブルなニュー・シングル“LET’S MUSIC”もとにかく素晴らしいので、ノリにノっているセクゾが今後J-Popシーンにどんな一石を投じるのかが楽しみでならない。