
世界がどんなに変わろうと自分は自分でしかいられない――進化を続けるプロデューサーは、多数のゲストを迎えて色鮮やかに音楽性を拡張させた新作を〈軌道〉と名付けた
さらなる拡張を見せる音楽性
極上のビート、グルーヴと共に溢れ出す豊かな色彩と静かなパッション。2016年のファースト・アルバム『Pushin’』を皮切りに、時に繊細に、またある時は大胆に刻んできたビートは、プロデューサーであるSTUTSの個性と進化を浮き彫りにしてきた。
「2018年の前作アルバム『Eutopia』からの4年間は自分にとってかなり大きな経験になりました。例えば、自分で歌ってみたり、ちょっとずつ練習したいろんな楽器の音をトラックに取り入れたり、自分で弾いたギターや鍵盤を起点に曲を作るようになったり、以前からやってみたいと思っていたことが徐々に具現化できるようになりましたね」。
2020年には新たに編成したバンドによる配信限定のライブ音源『STUTS Band Set Live “90 Degrees”』と自身のヴォーカル、ラップをフィーチャーしたミニ・アルバム『Contrast』を発表。2021年には、TVドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の主題歌“Presence”を担当したSTUTSは、主演の松たか子をシンガーに据え、KID FRESINOら5人のラッパーが毎話ごとに代わる代わる登場する異例の作品態を含め、大きな話題を振り撒くと共に一気に評価を高めていった。
「次作アルバムに向けた曲作りは、2020年のミニ・アルバム『Contrast』が完成する前後から始めて、『大豆田とわ子と三人の元夫』の音楽制作と並行して作業を進めていきました。その過程でふわっと考えていたのは、パンデミックに象徴される世の中の大きな変化や自分を取り巻く状況の変化がありつつも、結局、自分は自分でしかいられないということ。そこから〈軌道〉を意味するアルバム・タイトルの『Orbit』を思い付いたんですけど、光に当たる時もあれば闇に飲まれる時もある、軌道をぐるぐる周回するイメージが自分の在り方と重なるものがあったんです」。

そして、完成したサード・アルバム『Orbit』は、STUTSがこの4年間で切り拓いた新たな表現を研ぎ澄ませ、さらに発展させた作品だ。自身もMPCをはじめ、ギターやベース、キーボードなど、さまざまな楽器を弾きこなしながら、現在のライヴ・バンドの一員であるギターの仰木亮彦(在日ファンク)、ベースの岩見継吾、キーボードのTAIHEI(Suchmos)、ドラムの吉良創太らとセッションを敢行。さらに録音した素材をエディット、加工することで構築した楽曲は、ブーンバップやトラップ、ハウスや2ステップなど、ビート・ミュージックの多様性を謳歌しながら、ジャズやソウル、ファンク、ラテン、レゲエなど豊潤な音楽要素をより柔軟に、繊細に織り込んでいる。
「『Eutopia』もプレイヤーに参加してもらった作品ではあったんですけど、当時は表現したい音、アレンジがあるとして、どういう楽器を組み合わせたらいいのかがわからなかったので、手当たり次第に弾いてもらっていたんです。でも、その後、アレンジを学びながら制作の経験を重ね、ミュージシャンの皆さんとコミュニケーションを深めたことで、欲しい音、アレンジにピンポイントで辿り着けるようになったと思います。ただ、音楽性の広がりは意図したわけではなくて、気づいたらそうなっていたという感じです。UKのグライム、ウィズキッドやテムズのようなアフロビーツだったり、ケリー・チャンドラーやカオス・イン・ザ・CBDのようなダンス・ミュージックだったり、この4年で聴く音楽の幅が広がったことが影響しているかもしれないですね」。
自分はどこまでいっても自分
tofubeatsとマイクを分け合った“One”や盟友のJJJ、BIMがエモーショナルにスピットする“Voyage”をはじめ、本作には、C.O.S.A.、Yo-Sea、Daichi Yamamoto、Campanella、 Ryugo Ishida、NENE、北里彰久、仙人掌、鎮座DOPENESSら、国内外の錚々たるラッパー、シンガーをフィーチャー。“Presence”を超える総勢8名からなるマイクリレーが聴く者を圧倒する“Expressions”が象徴するように、楽曲の世界観、ムードを補完する適材適所な配役、ゲスト陣の組み合わせの妙にはプロデューサーであるSTUTSの鋭敏なセンスが凝縮されている。
「シンガー・ソングライター的な作品だった『Contrast』に対して、今回はプロデューサーとしての自分に立ち返って、親しいラッパーやシンガーをフィーチャーしつつ、自分の居場所を限定せず、新しいコラボレーションにも積極的にトライしたかったんです。“タイミングでしょ”でご一緒したAwichさんはラップも歌も上手くてグルーヴィーで、自身のアイデンティティーを前面に打ち出したリリックが心に刺さるアーティストですけど、今回のセッションを通じて、彼女にそれだけにとどまらないいろんな側面があることを知ったというか、それを形に出来たかなと。マイクリレー曲“Expressions”にフィーチャーしたSANTAWORLDVIEWくんも元々好きだったんですけど、彼がここ1、2年の作品でいろんなタイプのビートでラップしていて、自分のビートに乗ったSANTAくんのラップを聴いてみたくてお誘いしました。今回、声はかけられなかったんですけど、一緒に曲を作りたいラッパーはたくさんいるので、今後もおもしろいコラボレーションをお聴かせしたいです」。
そして、ブルー&エグザイルでの活動でお馴染みLAのラッパー、ブルーが宇宙から俯瞰するような視点で色鮮やかな世界を描いた“Lights”や予想外の展開を見せるトラックと共に、5lackと台湾のR&Bシンガー、ジュリア・ウーが終末世界において不思議な引力が惹きつけ合う人々の物語を紡ぐ“World’s End”など、本作はリリックの面においても光と闇を内包し、巡り巡る〈軌道〉を強く意識させる。
「『Orbit』というアルバム・タイトルは、ネガティヴにもポジティヴにも振り切ったものではないフラットな意味合いで付けたんですけど、自分はどこまでいっても自分であって、何を作っても自分から脱却できない、ある種の歪さ、その人のクセというのは、自分が音楽を聴いている時、ぐっとくるポイントだったりしますし、その部分は肯定的に捉えています。今回のアルバムもこれまで同様、できるかぎり最高のクォリティーのものにしようとがんばったんですけど、いくらがんばったところで、自分では気づけない歪みがあるし、それこそが音楽において重要なんじゃないかなって」。
左から、ブルーの2021年作『The Color Blu(e)』(New World Color/Nature Sounds )、Awichの2022年作『Queendom』(ユニバーサル)、SANTAWORLDVIEWの2022年作『I’M THE ONE』(1%)、5lackの2021年作『Title』(高田音楽制作事務所)、ジュリア・ウーの2020年作『5pm』(Pヴァイン)、tofubeatsの2022年作『REFLECTION』(unBORDE)
シーンをクロスオーヴァーしながらビートを刻んでいくSTUTS、近年のめざましい活躍(の一部)を紹介!

坂元裕二脚本によるドラマのサントラをSTUTSが全編プロデュース。歌詞も手掛けたbutajiによる流麗なメロディーと、浮遊感に溢れるプロダクションが重なるさまは実に洒脱だ。ラテンを取り入れたアレンジにも独特のメランコリアが漂う。

星野源との絡みでの紅白出演などを経て、ポップ・シーンにおける存在感が増すなかで発表されたミニ・アルバム。バンド録音、歌への初挑戦など新作に直結するトピックも多く、エレガントなハウス/ディスコ・グルーヴは新境地を印象付けた。極上。
JQやiri、岡崎体育らも参加。優良ダンス・ポップが揃ったセクゾ最新作に、STUTSはbutajiと“Summer Ride”を提供した。潮風と黄昏の似合うメロウ・チューンで、ヴォーカル・グループとしての彼らの魅力を引き出している。

時代の潮流とは無縁に唾を飛ばすようなシャウトを続けるラッパーの3作目。14年来の盟友で、互いの初作からコラボしているSTUTSは、冒頭曲を含む4曲にビートを提供。Gファンクに挑んだ“Rock Steady”など流石の相性の良さだ。

結成20周年を経て快調な活動を続けるデュオの最新作。STUTSは鎮座DOPENESSをフィーチャーした“RAW LIFE”のトラックとミックスを担当した。アーバンなシンセと推進力を持つリズムで、彼らの綴るラップ愛を彩る。
ゴダイゴのリーダーとして知られる鍵盤奏者の古希をSTUTSもCampanellaとお祝い。77年のプログレ・ポップ“DEAD END~LOVE FLOWERS PROPHECY”にファットなブレイクビーツを加え、最高にクールなファンクに衣替えしている。
〈とわ子〉での好感触を受け、ソウルフルな歌唱が持ち味のシンガーは自作にもSTUTSを召喚し、“YOU NEVER KNOW”と“I’m here”の2曲でプロデュースを委ねている。主役の歌を引き立てる、シンプルながらも端正なアレンジが見事。
ベーシストのnakayaanはSTUTSと小学生の同級生という縁を持つが、このタイミングで初のコラボが実現。CD版にボーナス・トラックとして収録された共作曲“Basic”では、ビートが淡いサイケデリアを揺らめかす。まるで波紋のような美しさ。
〈2度目のデビュー盤みたい〉と語る9作目は、YUKI本人がプロデュースし、好きな音楽家にオファー。STUTSが編曲を手掛けた“転校生になれたら”は川本真琴の作曲。穏やかなビートに乗せて〈1,2,3,4〉と歌う姿にファイストのあれを想起したり。




