OPUS OF THE YEAR 2020
[ 特集 ]2020年の100枚+

どんな一年だった?なんて呑気に振り返るのも難しいかもしれない……でも、そこに鳴っていた音が、こんなアルバムたちと共にいい記憶として残っていきますように!

 


ONE HUNDRED PLUS ONE
ライター陣の選ぶ2020年の〈+1枚〉

◆赤瀧洋二

TENNIS 『Swimmer』 Mutually Detrimental(2020)

個人的にはハイム『Women In Music Pt. III』やアシュリー・マクブライド『Never Will』など女性アーティストの作品にいいものが多かったですが、そのなかでもこれが間違いなくマイベスト。実を言うと彼らの過去作はあまりチェックしていなかったのですが、ヴォーカル、アライナ・ムーアのチャーミングな歌声を聴いて一発で虜に(笑)。アートワークも良いので、できればCDかアナログ盤で聴いてほしい。

 

◆荒金良介

MR. BUNGLE 『The Raging Wrath Of The Easter Bunny Demo』 Ipecac(2020)

思いっきりS.O.D. meets スレイヤーな音像に笑うしかない。いや、これが最高! マイク・パットン(ヴォーカル)を看板にスコット・イアン(ギター)、デイヴ・ロンバード(ドラムス)を迎えれば、出てくる音はそうならざるを得ない。しかも彼らが高校時代に作ったデモを再録しているから、八方破れの初期衝動が炸裂しまくっている。ぜひ! そして、2020年はパワー・トリップのライリー・ゲイル(ヴォーカル)突然の死去からまだ立ち直れない。

 

◆池谷瑛子

一年の半分以上を在宅勤務で過ごした2020年。〈家で音楽が聴けるじゃん!〉と喜んでいろいろ買ったなかでいちばん聴いたのはこのGONTITIの最新作でした。バッハの穏やかなカヴァーをはじめ、一息つきたい午後に似合うギターの調べは仕事を邪魔せず、なおかつ自室のムードを整える調度品のよう。新譜を買うのは『VSOP』以来12年ぶりという不義理なファンながら、しみじみGONTITIの良さを味わい、これを機会に他のアルバムも揃えはじめたのでした。

 

◆一ノ木裕之

Phew 『Vertigo KO』 Disciples/BEAT(2020)

想像もしなかった一年にもとにかく日々は続いていくと、特にキャリアあるアーティストたちから勝手に勇気づけられた2020。ご覧のPHEWをはじめ、朝生愛、アキツユコ、ホース・ローズ、カール・ストーン御大……加えてニコラス・ジャー、ビアトリス・ディロン、エリア3、貴水玲央、そして何より今年もデュマ、HHYらのリリースでぶっちぎりのネゲ・ネゲ・テープス、RVNGの諸作にニディア、リド・ピミエンタ……敬称略。ありすぎるリイシューものは心ん中で。

 

◆稲村智行

TERENCE BLANCHARD 『Da 5 Bloods』 Milan(2020)

ジャズ・トランペット奏者のテレンス・ブランチャードによる、スパイク・リー監督の映画「ザ・ファイブ・ブラッズ」のオリジナル・スコア。そこで隊長を演じたチャドウィック・ボーズマンが8月に43歳という若さで闘病の末に亡くなった……。それは世界にとって、自分にとっても衝撃的な出来事の一つだった。そして12月には、アイス・キューブ主演作「フライデー」(95年)のディーボ役でお馴染みの俳優、タイニー・リスター・ジュニアの訃報までも……なんてこった2020。

 

◆大原かおり

日々の生活はあまり変わらずでしたが、それでも自宅の室内で音楽を聴く機会は前より増えたように思います。そんな時によく機能したのはasmiやRin音、Saint Vega、kojikoji、ゆいにしお、uyuniなどベッドルーム~クラウド感の強い新世代(?)のアーティストたち。送り手と聴き手の小声のコミュニケーションで完結するようなタイニーな世界のちょっとした心地良さにどっぷりとハマった2020年でした。そうしてると爆発的な音が聴きたくなったりするのも結局はいつも通り。

 

◆香椎 恵

ADRIAN YOUNGE,ALI SHAHEED MUHAMMAD 『Roy Ayers』 Jazz Is Dead(2020)

何かしらの指標に興味を委ねるとスマートなようでいて実際は時間を盗まれるだけなので、生きてるうちにどれだけ聴けるか考えた結果、好きな方面だけに視野を狭くして楽しんだ2020年。グライムもアフロビーツも内包したUKヒップホップ、ドラムンベースは引き続き熱かったし、一方ではアンジェラ・ムニョスやローレン・オデンの良品も含め、ミッドナイト・アワー周辺のブレない仕事ぶりにやはり惹かれた。

 

◆金子厚武

haruka nakamura 『スティルライフ』 灯台(2020)

家の中で過ごすことが増え、考え事をする時間も増えた2020年において、ミュート・ピアノを自宅で録音したこの10年ぶりのソロ・アルバムは、文字通り静物画のように、日々に寄り添い、穏やかな時間を作り出してくれました。本作含め、図らずも時代の変化を察知してしまったような今年前半の作品からも、奇妙な一年の空気を存分に吸い込んだ年末の作品からも、やはり音楽が社会の映し鏡であることを感じずにはいられない一年でもありました。