大手出版社を舞台に、雑誌「トリニティ」の編集長である速水(大泉洋)が次第に大事件に巻き込まれていく塩田武士のミステリ小説が原作の映画「騙し絵の牙」が、2021年3月26日(金)より全国公開された。メガホンを取ったのは、映画「桐島、部活やめるってよ」で日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した吉田大八。同作の音楽を制作するにあたり、実は音楽好きでもある吉田監督が指名したのが、イントゥルメンタル・バンドのLITEだった。一見意外に感じる組み合わせだが、実は吉田監督はLITEを愛聴していたという。

映画公開と同日の本日3月26日(金)にリリースされた同作のサウンドトラックと、映画の音楽面の魅力について、吉田大八監督、LITEの武田信幸(ギター)、楠本構造(ギター、シンセサイザー)、井澤惇(ベース)、山本晃紀(ドラムス)に語っていただく。 *Mikiki編集部

LITE 『映画「騙し絵の牙」オリジナル・サウンドトラック』 melodypunchrecords(2021)

 

LITEの音楽がアクションを起動する〈トリガー〉に

――映画『騙し絵の牙』の音楽をLITEに依頼しようと思った理由から、まずは教えていただけますか?

吉田大八「映画の脚本を書いていた2019年の春頃、ちょうど出たばっかりだったLITEの『Multiple』をよく聴いていて……というか、いろいろ聴いた中で『Multiple』の時にいちばん筆が進んだんですよね。だけど、僕はLITEとは面識なかったですし、海外でも活躍されているから日本にいるかどうかもわからないし……みたいな、なんとなく敷居が高い感じがして。実際にサントラをお願いするっていうイメージは持てなかったんです。でも、編集が始まっても僕がずっとこだわってたのを見かねた音楽プロデューサーが、ダメ元で一回会ってみたらと背中を押してくれて。それでお会いすることになったんですよね」

武田信幸「吉田監督の存在や、監督の映画のことは知っていましたけど、どんな方なのかっていうことまでは知らなかったですし……映像に音楽を当てるという仕事を、僕らはこれまでほとんどやったことがないんですよね。そもそも、映像先行で曲を書くっていうことをやったことがないという。だから、最初にお話をいただいたときは、〈何をどうやったらいいんだろう?〉っていうレベルだったんですよね(笑)」

吉田「でも、それはちょっと意外でしたね。結構長いこと活動されているのに、誰もこの音楽を映像に結び付けなかったっていう。僕からしたら、そこは逆に不思議なくらいですけど」

武田「CM音楽とかはやらせてもらったことがあるんですけど、もともと僕らは、映像をイメージして曲を作るっていうことが、まずないんですよね。フレーズのぶつかり合いというか、音の響きありきで積み上げていくタイプなので。なので、最初はホント、どうしようかっていうのはありましたね(笑)」

――最初の話し合いは、どんな感じだったんですか?

吉田「編集の途中段階のものを通して見る、〈ラッシュ試写〉にまず武田さんおひとりできていただいて。で、試写のあと、そこで初めてお話しできた時に、想像と違って話しやすい方だったので……」

武田「ははは(笑)」

吉田「怖い感じだったらどうしようって若干ビビってたんですけど、すごくいい感じの雰囲気で話せたから〈あ、これはいけるかも〉って、こっちは勝手に思っちゃったんですよね」

武田「そのとき見せていただいたのは、音楽がまったく入ってない、台詞しか入ってないものだったんですけど、僕の第一印象的には、〈これ、映像だけでも、すごい面白いな〉というか、それだけでもう成り立っているような感じだったんですよね。なので、僕らはここで何をしたらいいんだろうというか、最初はそういう感じでしたね」

楠本構造「そのあと、僕らも同じものを見させてもらったんですけど、これはこれで完成してるなっていうのを、やっぱり僕も思って。ここに、どうやって音楽を入れていけばいいんだろう……というか、そもそもこの映像に、LITEの音楽が合うんだろうかっていう不安は結構ありましたね」

武田「うん、それはあったね」

楠本「ただ、お願いしてくるからには、何か意図があるんだろうなっていう」

――そのあたりの意図や狙いというのは?

吉田「や、この映画って、情緒というか、名付けようのない感情みたいなものはあまりなくて。むしろ、意図とアクションががっちりリンクしているタイプの映画というか。そのアクションを起動する〈トリガー〉みたいなものとして、音楽を考えていたんですよね。だから、LITEのエッジの強さがぴったり合うと思ったんです」

――通常の劇伴みたいな音楽は、ちょっと違うなと。

吉田「そうですね。LITEのハードな変拍子が、物語を単純化せずにうまく加速してくれそうな気がした。あえて言うと、こういう音楽みたいな映画になればいいなっていうイメージを、脚本の段階から多分持っていたんですよね。そういう意味ではいつもより狙いが絞れていたというか、もうLITE以外の音楽を入れる気にならなかったという。まあ、LITEのみなさんからしたら、寝耳に水でしょうけど(笑)。自分の中では、そういう思い込みがあったんですよね」

――そういう話をすり合わせていきながら、音楽を作り始めていった感じですか?

武田「確か、2回目に見せてもらったときには、そこに監督がLITEの既存曲を、いろいろ当ててくれていたんですよね。で、〈なるほど、こういう感じで映像と合わさるんだ〉っていう発見があって……それをもとに、いろいろ細かいところをすり合わせていった感じですね」

吉田「勝手に何してくれてんだ、って思いませんでした?」

武田「いえいえ(笑)。というか、ミュージック・ビデオとかCM以外で映像に乗った自分たちの曲っていうのを聴いたことがなかったので、それはそれですごい新鮮だったんですよね。意外と合うかもっていう(笑)。そのときに一筋の光が射したというか、僕らもようやく〈なるほど〉って思ったという」

 

吉田監督がLITEをプロデュースしているみたい

――そこから具体的に、どんな感じで作業を進めていったのですか?

武田「まず、期間的な話と曲数的な話を伺って……僕らが過去、作品を出しているペースって、2年に一回、10曲ぐらいのペースじゃないですか。なので、2か月でトータル30パターンぐらい、曲数で言うと20曲ぐらい作ることが、果たして可能なんだろうかっていう話をメンバーとして……」

井澤惇「話したね(笑)」

吉田「実を言うと、僕の今までの映画と比較してもかなり過酷なペースで……LITEのみなさん、よく怒らなかったなっていう(笑)。でも、実際始まってみたら、すごい勢いでデモが上がってきて。みんな、寝てるのかなって」

武田「寝てはいなかったかもしれないです(笑)」

吉田「ですよね。午後に送られてきたデモを聴いて、レスポンスを返したら、その日の夜に新しいものが送られてきて。で、ちゃんとこちらからの要望が反映されているから……毎回驚いてました」

井澤「(笑)。でも、今回は、やり方が結構上手くいった気がしますよね。監督と武田がコミュニケーションしているあいだ、僕らはずっと作業することができたので。監督からの要望も武田から聞いて、こっちでやれることはすぐにやって、また武田に返せるというか。家でやれることは、みんなバラバラに同時進行でやれるような体制を作ったんですよね」

武田「もともと僕らの曲作りって、わりとギターのフレーズから始まったりとか、ひとりが持ってきたものをもとに、みんなで考えるっていうパターンだったんですけど、さすがに今回はそのやり方では無理だねっていう話になって、最初からある程度分担して、それぞれが得意なところをやっていったんですよね」

吉田「あ、それはもう最初から、ある程度曲を分担してっていうことですか?」

武田「そうですね。もう最初から曲ごとに担当を決めて、おのおのが作るみたいな。で、それがうまくハマりそうだったらメンバーに確認しつつ、最後僕のフィルターを一回通して監督に送るみたいな。そんなやり取りではありました」

井澤「もともと監督から、ここからここまで音を当てて欲しいっていう映像を、バラバラに送っていただいて、それを各自見ながら、こういう曲はどうかなっていうフレーズをつけたものを、みんなで共有できるようにしたんです。で、それを武田に整理してもらった上で監督に送って、監督からレスポンスがあったらそれを受けて、そのデモを作った人がまた考えるみたいな感じでやっていって」

武田「最近は、そうやってフレーズごとのデータのやり取りみたいなことを結構していたので、そこに対する壁はあんまりなかったかもしれないですね。みんな、それをやれる環境がそれぞれの作業スペースに整っていたので」

吉田「なるほど。そう、今回は、お願いした時点である程度編集が進んでいたので、おおまかに尺を指定させてもらったんですよね。まあ、その後だんだん指示が細かくなっていくんですけど(笑)。でも、トータルでは大きく変わらなかったと思います」

――あらかじめ曲の長さが指定されているというのは、なかなか難しかったんじゃないですか?

武田「そうですね。それはホント初めてに近かったというか、CMとかの場合でも〈2、3分で〉とか、わりとフワッとお願いされることが多かったので。しかも今回は、すごい短い曲の中で展開とか決めのタイミングについてかなり細かい要望があって……曲として強引な感じにならないようにする調整は、おのおの結構考えたところだったと思います」

吉田「昨日、武田さんとのメールのやり取りを見返してみたんですけど、その文面を読んでたらちょっと気持ち悪くなっちゃって……途中で読むのやめましたよ」

――どういうことですか(笑)。

吉田「や、素人が、プロのミュージシャンにこんな我儘なリクエストよく出せるなって。そのときの自分の精神状態が怖いわっていう(笑)。でも、そこでLITEのみなさんが素晴らしいのは、そういうやり取りのときでも、すごく大らかなんですよね。〈ああ、やってみます〉とか〈わかりました〉とか、平然と受けとめてくれて。それは監督として、この上ない救いでした(笑)」

井澤「でも、逆に僕は、この映画に対してどうLITEの音楽を合わせていくのか、監督の中ではちゃんとした道がもう作られているんだろうなっていう感覚がありました。僕らがいつも作るのって、さっき武田が言った通り、自分たちのフレーズから積み上げていくことが多いんですけど、今回は監督の〈こうしたい〉っていう気持ちに合わせて作っていく感じがあったというか……監督がLITEをプロデュースしているみたいな感覚があったんですよね」

楠本「うん、それはあったね。曲に対する指示の出し方も、ちょっとプロデューサー的な感じがあって」

武田「だから、いつもの僕らだったら多分やらないなっていうことも監督からの要望でやってみたりしたんですけど、それはそれですごい新鮮だったし、監督の要望もすごい意味がわかるというか、僕らの音楽を知ってくれている上でそう言ってくれているんだなっていうのが、すごい伝わってきたんです。だったら、それはもう応えるしかないし、応えられるなっていう気持ちでやっていましたね」

山本晃紀「監督のレスポンスを受けて、デモの完成度が上がっていく感じがあったんですよね。今までだったらやらないことでも、監督の要望を受けてやってみたら、曲の完成度がどんどん上がっていったという」

武田「だから、いつものLITEだったら作らないような曲も、実は結構多いんですけど、それはそれですごく良いものになったと思うし、それを生み出せたのもこの映画のおかげであり、監督のプロデュースのおかげかなって思うんですよね」

吉田「いやあ、もう……このくだりは、カットしないでください(笑)」

井澤「(笑)。そう、監督は〈映像に合わせて、こういう感じにしてください〉とか〈ここの秒数で決めてください〉とか、映像ありきの言い方は絶対しないんですよね。〈こういう雰囲気なんです〉とか〈この部分から上がっていきたいんです〉みたいな感じというか、全部曲そのものに対する要望であって……それが僕の中ではすごい良かったというか、監督は本当に音楽が好きで、これは音楽そのものに対する要望なんだって、ちゃんと思えたんですよね」

楠本「確かに、それは思ったかもしれない。ミュージシャン的な指示って、〈ここ、もうちょっとギターを厚く〉とか〈もっとコード進行入れて〉とか、もうちょっと具体的なんですけど、監督の指示は〈ここは、こういう気持ちを表現したいんです〉とか、もっと抽象的だったというか。それが逆に、僕はすごい新鮮でしたね」

 

〈あ、この映画、普通じゃないな〉

――実際、完成した映画を観て、LITEのみなさんはどんな感想を持ちましたか?

武田「僕は、ひとつの結論として、LITEの音楽って映画に合うんだって思いました(笑)。自分たちではそれを知らなかったというか、今まで活動してきた中でそれは僕らの中では想像できなかったことですし、すごい発見でしたね」

井澤「僕らは、曲を作る過程でずっと同じシーンを見続けているわけじゃないですか。なので、自分が出したネタの部分って、台詞から何からすべて覚えてるんですよね。その空気感に至るまで。だから完成したものを観て、ちょっと不思議な気持ちになりましたけど、映画そのものに対する思い入れっていうのはやっぱりすごく強くて。自分が普段、楽しんで観ている映画とは全然見え方が違うというか……それは、僕にとっては初体験でしたね。作り手として関わった映画っていうのは、自分の中でこんなにも見え方が変わるんだっていう。あと、ちゃんと5.1chで聴ける会場で観させてもらったんですけど、音がすっごい爆音で。ホント、ライブのような音圧で流れていたので、〈こんなにデカくていいのかな?〉って、僕は逆にちょっとヒヤヒヤしました(笑)」

武田「そう、音に関しては、僕も思って……〈あ、この映画、普通じゃないな〉っていう感じがしたというか、普通の映画は、こんなに爆音で音楽が鳴らないよねっていう(笑)」

楠本「僕もそれは同じですね。全体としてLITEの音楽がすごく合ってるなって思ったんですけど、ひとつひとつのシーンを取り出してみると、やっぱりちょっと普通じゃないなって思って(笑)。でも、もし自分がこの映画を劇場で観ていたら、エンドロールのときに音楽のクレジットを絶対チェックするだろうなとは思いました。これはもう、カッコいいでしょって(笑)。それぐらい映画に合ってる感覚はありましたね」

山本「僕は単純に、すごい感動しました。まあ、その感動は、作品そのものが面白いっていう感動もあると思うし、すごい短期間にギュッと濃縮した形で音楽を作っていったので、そういう意味での感動もあったのかもしれないですけど。エンドロールが出てきたときに、〈ああ、これでやっと終わった……〉みたいな感じがあったので(笑)。あと、音の大きさには、やっぱり僕も驚きましたね。そう、こないだようやく『ボヘミアン・ラプソディー』を観たんですけど、あれぐらいの音量感で鳴っていて……そういう意味でもめっちゃ攻めてるなって思って、そこもすごい感動しました」

吉田「映画全体の整音(ミックス)は、矢野正人さんという、日本映画界でナンバーワンの名人にやっていただいたんですけど、この音楽を聴いた時点で、〈監督、音楽、下げませんよ〉って宣言されて……」

武田「ははは(笑)」

吉田「や、もう好きなようにやってくださいって言ったら、僕もちょっとヒヤッとするぐらいのレベルになっていて。でも、それぐらい、ちょっと危ない橋を渡らないと何も変わらないと思うんですよね。なんとなく〈これぐらいだろう〉みたいな感じでやっていくと、もう誰に向けて作っているのかわからないものになってしまうことが多いので」

武田「ああ……その感じは、すごくよくわかります」

吉田「ただ、音は大きくても、物語の展開に丁寧に沿っているから、気持ち良く聴いてもらえるはずなんですよね」

――というか、今回の映画は、音楽の担っている役割が結構大きいですよね。登場人物の心情を表していたり、映画のリズムを刻んでいたり……そういう演出的な役割もかなり担っているというか。

吉田「そうですね。演出って、別に撮影現場だけのものじゃないですから。だから編集しながら、LITEに渡すべきところはどんどん積極的に渡していこうと」

――その音楽が、こうして一枚のアルバムになったことについては、いかがですか?

武田「実は、去年のLITEの個人的な目標のひとつが、〈プロデューサーを入れて、違う世界を見る〉だったんですよね。で、その後、今回のお話をいただいて……まさか、そこに結び付くとは思ってなかったんですけど、さっき話したように、今回の作業を通して、僕らだけでは見られない世界をすごく見ることができたんですよね。それは、映像っていう視点からの曲作りもそうだし、監督の感性が僕らの楽曲に影響することもあって……それこそさっき言ったように、ある意味プロデュースっていうことになるのかもしれないですけど、そうやって僕らだけでは作れない作品になったなっていうのは思っていて。僕の中では、そういう位置付けの一枚というか、既存のLITEのアルバムとは、もちろん一線を画するんですけど、今までのものとはまた違う、別の世界が見られる作品になったんじゃないかなって思っています」

井澤「今、武田が言ったように、これまでのLITEの楽曲の作り方や、ライブでやっているような空気感とはちょっと違う作品になったというか、良い意味でこれまでのリスナーの予想を裏切るような作品になったんじゃないかなって思います。多分、僕らが映画音楽に関わったっていうことがまずひとつ予想外だったと思うし、そこで作った音楽がLITEの自我だけではなく、ちゃんと映画の中に落とし込めたLITEの作品になったっていうのも予想外だろうし。で、今回の映画でLITEのことを知ってくれた人は、僕らのこれまでの楽曲とか、それこそ僕らのライブを見ていただけたら、それはそれで全然予想外な感じがあると思うんですよね。そういう予想外のギャップみたいなものが僕は面白いんじゃないかって思います」

 

※この対談の全文は、3月26日(金)リリース、「映画『騙し絵の牙』オリジナル・サウンドラック」購入者特典のライナーノーツにてお読みいただけます。


INFORMATION
映画「騙し絵の牙」

監督:吉田大八
原作:塩田武士「騙し絵の牙」
音楽:LITE
出演:大泉洋/松岡茉優/佐藤浩市/宮沢氷魚/池田エライザ/中村倫也/佐野史郎/木村佳乃/和田聰宏/坪倉由幸/斎藤工/塚本晋也/リリー・フランキー/小林聡美/國村隼/ほか
配給:松竹
(C)2021「騙し絵の牙」製作委員会
◎2021年3月26日(金)全国ロードショー!