戦前のSPレコードの復刻だが、音質が驚くほど良く、何より名手クライスラーの情緒豊かで、甘美で滴るような、それでいて気品高いヴァイオリンが最高だ。第10集なので、ベスト盤的な選曲ではないが、却ってマニアには喜ばれるだろうし、初心者の方にも理屈抜きで楽しめる名曲、名演揃いとなっている。1曲目、ヴィンターニッツという聞き慣れぬ作曲家による“操り人形の踊り”から聴き惚れるばかり。愛らしいメロディーの中に、洒落たセンス、温かい人間味、涙の滲むような感慨が漲っている。曲によりテイク違いも収録されているが、クライスラーが気分を変えて弾いているのが聴き取れ、興味が尽きない。