昨年、生誕150年を迎えたクライスラーに、現代の知性が新たな光を投げかけた。10代前半でウィーン音楽院とパリ音楽院を首席卒業した天才奏者は、10代後半には医師や軍人を志し、30代後半には第一次大戦に従軍するなど、その生涯は数々の伝説に彩られてきた。ドイツの音楽学者である著者は、膨大な一次資料をもとに〈伝説〉を検証し、音楽院卒業後の学歴や軍歴を正確に読み直すことで、等身大の青年クライスラー像を描き出している。さらに、世界的奏者となった後の歩みについては、レコード録音の分析と当時の演奏会評を結びつけることで、魅惑的な演奏を生み出した奏法の秘密を具体的に明らかにしていく。