ストリーミング・サーヴィスの興隆やYouTubeを始めとする動画投稿サイト、TikTokやInstagramといったSNSの流行により変革期を迎えた音楽シーン。手軽に音楽を聴ける環境は、若い世代のアーティストにも大きな影響をもたらしているように思える。事実、音楽ランキングの上位にはそういった若い世代が名を連ね、その感性を存分に発揮した楽曲の数々は、同年代の層から絶大な共感を得て人気を博している。
また、楽曲はもちろん、アートワークやMVの撮影などを自分自身やチームで手掛け発信する若いアーティストが増えてきたのも今の音楽シーンの特徴のひとつだ。楽曲だって、いまやスマートフォン1台あれば作れてしまう時代。そういった時代に呼応した制作活動をするアーティストも少なくない。
そんな誰もが音楽を制作できる時代において、特に注目して欲しいのが今回紹介するあぶらこぶ。楽曲の全てをiPhoneアプリの〈GarageBand〉で制作する新進気鋭のアーティストである彼女が、自身初となる全国流通盤ミニ・アルバム『navel』を3月17日にリリースした。
現役高校生であり〈がれーじばんだー〉と名乗る彼女の作品にはポジティヴかつヴァラエティーに富んだ楽曲が並ぶ。今回は現在の音楽シーンを引っ張る若い世代のアーティストに触れつつ、あぶらこぶのミニ・アルバム『navel』や彼女の魅力について迫っていく。
代表的な〈Z世代〉アーティスト
若い世代の活躍が目立つ、現在の音楽シーン。いわゆるデジタル・ネイティヴな〈Z世代〉の台頭が著しく、昨年“夜に駆ける”の大ヒットで一躍日本のポップス・シーンのトップに躍り出たYOASOBIをはじめ多くの若い世代のアーティストが音楽ランキングの上位に名を連ねている。
この世代の特徴を挙げるとするならばさまざまなことに自ら柔軟にチャレンジし、変化を繰り返す現在のシーンに対応しているということ。先述したYOASOBIを例に挙げるならば、彼らは小説を基に楽曲を生み出すという新たな試みにチャレンジして成功を収めたし、2021年最注目のアーティストして各媒体がこぞって名前を挙げるシンガー・ソングライターのVaundyは自身のYouTubeチャンネルを開設し、セルフ・ブランディングを行って現在の地位までその名前を押し上げた。また、昨年“春を告げる”がヒットしたyamaはTikTok経由で世に出てきた〈Z世代〉のアーティストと言えるだろう。そして、この世代のキーワードのひとつが〈DIY〉。シンガー・ソングライターでありトラックメイカーのMomは独自のジャンルである〈クラフト・ヒップホップ〉を提唱し、自身でアートワークやMV制作も手がけるなど個人で楽曲以外のものもクリエイトし、発信をしている。
Z世代以降のアーティスト
次に〈Z世代以降〉のアーティストに触れていこうと思う。本稿のはじめに、いまやスマートフォン1台あれば楽曲は作れてしまう時代と記したが、この時代にうまく適応し、楽曲を生み出しているのが、〈Z世代以降〉のアーティストの特徴と言えるだろう。
特に作曲アプリであるGarageBandに早くから触れ、作曲活動をスタートしたアーティストは非常に多く、現在、新しい地図や大塚愛といったヴェテラン・アーティストの作詞・作曲、リミックスを手がけるトラックメイカーのSASUKEは5歳からGarageBandで作曲活動をスタートさせた次世代を担うアーティストの1人だ。
また、GarageBandから生み出す完成度の高い楽曲を武器に、業界から一目置かれる存在としてジワジワと注目を集めているのが、岩井莉子と髙橋芽以のふたりからなる北海道札幌市発のニューウェイヴ・テクノ・バンドであるLAUSBUB。コロナ禍をきっかけに生まれた、まだまだ結成して日が浅いグループではあるが、アナログシンセサイザーの音色やサンプリングを用いた“Telefon”(2020年)はサカナクションの山口一郎などの著名人からも評価されており、SoundCloudのランキングではあのBTSを抑え週間チャート1位を獲得するなど、高校生とは思えないセンスの高さで今後グローバルな活躍が期待される最注目バンドといえるだろう。
〈Z世代以降〉のアーティストがはやくからGarageBandに触れ、クォリティーの高い作品を発表している中で、その潮流の最先端にいるのが今回紹介するあぶらこぶだ。