「ほんまに赤ちゃんの時とかは“マツケンサンバ”が好きやったみたいです(笑)。小5の時にKANA-BOONが何かで流れてるのを〈いいな〉って思ってから、いろんなバンドを聴くようになりました。そうやっていつも好きな音楽にどっぷりハマってるのが当たり前の生活やったんですけど、中1の頃に何を聴いてもときめかなくなった時期があって。その時に〈自分で作れたらいいな〉って思ったのがきっかけです。自分がときめく音楽を自分で作れたら困らへんなって(笑)」。

 音楽制作を始めた経緯をそう説明するあぶらこぶは、奈良在住の現役高校生。自身が〈がれーじばんだー〉と名乗る通り、トラックはGarageBandのみを使ってiPhoneで制作したものだが、YouTubeや配信サイトのEggsを通じて世に出た楽曲のクォリティーの高さは、ハスキーな歌声の魅力や詩的なセンスも相まって、早耳たちの支持を集めることとなった。

 「最初は家にあったピアノで、弾けないながらも作曲してて。で、中2でスマホ持たせてもらったと同時にGarageBandを触りはじめました。持たせてもらっても別にすることがなかったので(笑)、それで〈楽しいことないかな〉っていろいろ探してたらアプリに出会って、ゲームとかをやらないぶん、ずっとGarageBandを触ってました」。

 そもそもは自分のために曲を作りはじめたものの、身近なリスナーたちの存在が彼女を曲作りに没頭させていくこととなった。

 「〈自分で聴くだけなのもアレやな〉って思って、最初っから友達に送りまくってました(笑)。それで、みんな良い反応をくれてたんですよ。全然完成度の高いもんじゃないんですけど、その反応のおかげで曲を作るモチベーションになったというか、いまに繋がってるなって思います」。

 そして高校1年生の夏、初めてYouTubeに“プラスチックララバイ”を公開し、そのタイミングで「かっこつけたくなくて、変な名前にしようと思って(笑)」彼女はあぶらこぶになった。

 「それまでの曲と比べて自分でも〈めっちゃ良いの出来たな〉って初めて思ったので上げました。YouTubeは中学校の時ずっと禁止されとって。その後は、もう熱量で自分が押し切りました(笑)」。

 その楽曲が徐々に評判を集めるなかでタワレコ橿原店のスタッフが彼女を〈発見〉し、2020年にEP『tumbler』が限定リリース。それに続く初の全国流通盤が、「高2の間にアルバム出したいって思って」取り組んだという今回の『navel』だ。

 初のミニ・アルバムとなる『navel』には発表済みの4曲と、“花になる”“宇宙船”という書き下ろしの2曲を収録。なかでも彼女の美意識を瑞々しく伝えるのは「〈始まりの季節〉をイメージして、期待と不安の両方に寄り添える曲になってほしいなと思って作った」というリード曲の“花になる”だろう。一方の“宇宙船”は、ある人物にまつわる都市伝説に着想を得て書いたという幻想的な楽曲で、アルバム内で唯一のアップテンポなアレンジが残す印象も実に鮮やかだ。

 もちろん既出の4曲も彼女の素朴で豊かな才気を多彩にプレゼンする。厳かにピアノの響く3拍子の“春眠”、メロと言葉とオケがメランコリックに一体化して流れ込む“Think over”はいずれも印象的なトラック先行で生まれた曲だそう。

 「“春眠”はピアノから作って、オシャレな感じになったから、凄いミステリアスな曲にしようと思って。ちょっとミステリアスな春って感じの曲にしました。“Think over”もトラックから作ったんですけど、ストーリーというよりは、自分の思ってることとか気持ちとかを凄い前面に出した曲です」。

 ひときわ生々しい歌声が響く“儚砂”も深く沈んだ内省を伝える一曲だ。

 「もともと人魚をイメージしたインストのつもりで作ったものが残ってて〈これ、何かにならへんかな?〉ってずっと思ってて。で、自分の中で綺麗に書けたこの歌詞と合わせたらハマったっていう感じです。夜の11時ぐらいに作ろうと思って、3時とか4時ぐらいまでワーッて勢いで作って。けっこう短時間で作りました(笑)」。

 そして作品のラストを飾る“あお”は収録曲の中でいちばん過去の曲だという。

 「“あお”だけ中学生の時に作った曲なんですよ。中学校の時に初めてみんながめちゃめちゃ良いって言ってくれて、友達とかに〈ずっと聴いてるぐらい良い〉って言ってもらえた曲やって。それが嬉しかったっていうのもあり、自分の中でもめっちゃ思い入れが強いというか……他とは違う感じ。アルバムの最後に絶対入れたいと思って、それはすぐ決めました」。

 そんな実りの『navel』を「めっちゃ自分で何回も聴いてます。ほんまに中学校の時の自分に見せたい(笑)」と語るあぶらこぶ。まずは年齢や制作手法の新奇さが優先的な話題になるのだとしても、たぶんこの才能はそこに収まるものではない。当の本人ももう少し先を見ているようだ。

 「たぶん、いろんなことをやってみると思います(笑)。ずっと〈がれーじばんだー〉ではないかもしれない。具体的に想像できないんですけど、いつかライヴもやってみたいなって思います」。

 


あぶらこぶ
奈良在住の現役高校生で、〈がれーじばんだー〉を自称するシンガー・ソングライター。中学生の頃に独学で曲を書きはじめ、その後iPhoneでGarageBandアプリのみを使用しての楽曲制作をスタートする。高校生になった2019年に最初の音源となる“プラスチックララバイ”をYouTubeにて公開。Eggsにエントリーしてコンスタントに楽曲を発表し、徐々に認知度を広げていき、2020年7月に初のフィジカル作となる4曲入りEP『tumbler』を限定リリースする。その後も楽曲制作を続け、TV番組「バズリズム 02」などのメディアで取り上げられたことも話題となるなか、このたび初の全国流通盤となるファースト・ミニ・アルバム『navel』(Eggs)をリリースしたばかり。