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俺らの信じるカッコ良さ

 さらに中身を掘っていこう。冒頭から一気呵成にぶっ飛ばす“テレキャスター”“汚れたピースサイン”“直感のススメ”の3曲は、Yellow Studsのトレードマークと言うべき、ジャズっぽくスウィングするロカビリー調のピアノ・ロック。歌詞も野村太一が得意とする、しがないバンドマンの悲哀、世の中への怒り、そして人生の希望を高らかに歌うという、詩的なリアリズムに溢れたもの。“テレキャスター”の〈苦しんでへこんで愚痴を吐き捨てて/一体何を学んで何を手にしたってんだい?〉というフレーズに、心揺れない大人のロック・リスナーはいないだろう。

 中盤には、ラテン・ロック調のリズムが印象的な“嫌っちゃいないよ”と、変拍子を取り込んだカオティックなロックンロール“不気味な世界”が続く。“嫌っちゃいないよ”は、性的アイデンティティーに悩む太一の知人に向けて書かれたという、絶望の淵に沈む者へ希望のロープを投げ掛ける救いの歌。“不気味な世界”は、あらゆる欲望がクリック一つで手に入れられる時代に、〈大事なものを置いていくなよ〉と、本音を叩き付ける歌だ。

 「そもそも〈コンプライアンス〉っていう言葉、いつ出来たんでしょうね? TVを観てもライヴを観ても、当たり障りのない、毒にも薬にもならないものばかり流れてる。ならば〈いっそ毒を注入してやれ〉と思って書いたのが“不気味な世界”です。僕も歳を取ったし、同世代の連中が〈俺たちの頃は〉って言いたくなる気持ちもよくわかる。酒場でくだ巻いてる感じだけど、それもまた美しいのかなと思います」(太一)。

 もの悲しくも美しい3拍子のロック・バラード“きよしその夜”の、〈真面目に自粛しても生きていけるやつら/真面目に自粛してたら死んでしまうやつら〉という痛切な一節は、バンドがどちらの側に立つのかを雄弁に物語る。そして古馴染みのライヴハウスをテーマにしたロックンロール“Club Doctor”では、東京中のライヴハウスの名を連呼しながら、消えゆく場所と、それでも残るバンドマンたちの夢の跡を歌う。どちらも、コロナ時代でなければ生まれ得なかった曲だ。

 「でもね、コロナはそんなに、僕は気にしていないです。それよりも、普通の人たちが付け焼刃の知識で誰かを攻撃し合う、人間の幼さのほうが嫌でしたね。人は自分がつらい時に、心がやさぐれて、人を傷つけてしまう。それはコロナと関係なく、俺もみんなも未熟なところだなと思います。“Club Doctor”は、18年前に夢を抱えていた不良少年たちに捧げる歌ですね。あの頃は、BLANKEY JET CITY、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、ブライアン・セッツァー・オーケストラ、The ピーズとか、そのへんをみんなめざしていた。今そこをめざす人は少ないと思うけど、俺らが信じたカッコ良さがそこにはまだあると思って、これを書きました」(太一)。

 しがない、しかし気高いバンドマンの生き様をドラマティックに綴る“誰がため”と、上京しておよそ20年間の思いを、太一のアコーディオンと歌で奏でる“20”。やるせなさと苦みの向こうに、力強く励まされる何かを感じさせながら、アルバムは静かに幕を下ろす。

 「“誰がため”は、アルバムのなかで一番好きな曲かもしれない。“20”は僕の家で、安いマイクと安いアコーディオンで録りました。チープな音だけど、逆にそういう美しさがあると思います」(太一)。

 時に激しく、時に心地良くスウィングするロックンロールと、いいことばかりはありゃしない日々を、懸命に働き生きる者たちに寄り添う言葉。Yellow Studsが18年間歌い続けてきたメッセージは、コロナ禍の今だからこそ、確実に響くはずだ。響いてほしい。届いてほしい。

 「今回、プレイヤーとしてわがままに弾かせてもらった感覚があるので。自分でも〈いいフレーズ弾けたな〉と思えるものが多いし、自信がつきました」(植田)。

 「自分のプレイは全部、気に入ってますね。それぞれの曲にテーマを持って、今まで使っていなかったピックアップを使ったり、いろんなことをやっているので、個人的に大満足です」(良平)。

 「たとえば“嫌っちゃいないよ”は、スネアを高めのチューニングにして余韻を短めにして、逆に“直感のススメ”や“誰がため”では、低めにセッティングしてサステインを長くしてる。太一くんのお気に入りの音ですね。どれもハマってると思うし、チューニングにこだわって良かったなと思います」(高野)。

 「Yellow Studsはびっくりするほど知名度がなくて、なんでなんだろうな?と思うけど(苦笑)。知名度がなくてもこれだけすごいものが作れるんだぜと言いたいし、楽器の音、組み合わせ、構成の面でも日本ではあまりやってないことやれてるんじゃないか?と思います。俺らしかできないことをみんなやってくれたなと思うし、俺もやりました。本当に売れてほしいし、聴いてほしいです」(太一)。