2020年に生誕100年を迎えた名指揮者・クレツキ。その画期を持続するように、シューマン没後100年に合わせて1956年にEMIへモノラル録音した交響曲全集が新リマスターを経て正規盤初CD化された。圧政と戦争の悲劇に巻き込まれ、大きな犠牲を払い生き延びた彼が創り出す音楽には、言葉では到底語り切れない人生の重みがおのずと宿る。ベートーヴェンやマーラーと共にこのシューマンでも、その内奥を表象する強靭な音楽にさらに近づくことが可能になった。イスラエル・フィルの濃厚な弦を活かした、第2番での気骨に満ちた昂りと沈静、第4番の終楽章への経過部での光明を求める表現などは特に忘れがたい。