ロック・キッズも魅了
DMXは俳優として多数の映画に出演しているほか、グラミー賞に3度ノミネートされ、またさまざまな客演やコラボレーションを行っている。
多数のコラボレーションのなかには、サム41の“Makes No Difference”のミュージック・ビデオへのカメオ出演やリンプ・ビズキットのリミックス“Rollin’ (Urban Assault Vehicle)”(いずれも2000年)への参加など、ジャンルのクロスオーヴァーをしたものも少なくない。
DMXはヒップホップ・ヘッズのみならず、90年代末から2000年代前半当時、深夜にTVの洋楽番組をかじりつきで観ていたロック・キッズにとってもスターだった。その存在感の大きさ、ダークなたたずまいは、ジャンルの壁を越えて広範な影響を与えていたことだろう。
薬物依存の苦しみ
キャリアの初期から暴行やドラッグなどにまつわる逮捕、トラブルをたびたび起こしていたDMXだが、特に薬物中毒には長年悩まされており、キャリアに影を落としていた。マリファナの所持では数度逮捕されており、2020年のインタビューでは14歳で初めてクラック・コカインを摂取したことを告白している。また2016年には、オピオイドの過剰摂取により生命に関わる状況に陥っていた。
2019年、脱税の咎で収監されていたDMXは、出所後に『It’s Dark And Hell Is Hot』のリリースから20周年を記念したツアーを行う予定だった。しかし、リハビリへ専念するために中止に。ドラッグ禍に苦しんでいたことは、想像にかたくない。
2021年4月2日、DMXはドラッグのオーヴァードーズによると見られる心臓発作をホワイト・プレインズの自宅で起こし、NYの病院に救急搬送される。生命維持装置を付けられ、植物状態になっていると報じられていた。病院の外ではDMXの家族と友人たちがファンを集めて彼の音楽をかけ、Xの名をチャントし、腕を〈X〉に組んでサインを示すなど彼の回復を祈っていたが、4月9日、家族がDMXの死を公表した。
デフ・ジャムへの復帰、2021年の新作、後世への影響
2019年、DMXはスウィズ・ビーツ、リック・ロスと共に、TVシリーズ「ゴッドファーザー・オブ・ハーレム」のための楽曲“Just In Case”を発表。さらに、16年ぶりに古巣のデフ・ジャムと再契約をしたことも話題になった。デフ・ジャムは4月9日、Xの回復への祈りを込めて2つのコンピレーション『DMX: The Ruff Ryder』『A Dog’s Prayers』をリリースしている(ただしデフ・ジャムのこの行動には、〈金儲けのためのリリースだ〉という非難の声が上がっている)。
今年リリースされる予定の新作には、同じNYのスターである故ポップ・スモーク(Pop Smoke)、さらに同地で気を吐くグリゼルダ(Griselda)の面々――ウェストサイド・ガン(Westside Gunn)、コンウェイ・ザ・マシーン(Conway The Machine)、ベニー・ザ・ブッチャー(Benny The Butcher)らが参加している、と噂されていた。期待が高まっていたなかでの突然の死に、言葉を失っている。
低く太くしわがれた、ドスの効いたアイコニックな声によるフロウ、犬の吠え声を真似た独特の発声やシャウト、そしてハードコアなスタイルは、NYドリル・シーンや各地のギャングスタ・ラッパーたちにいまも影響を与えつづけていることだろう。現在ラップ・シーンで活躍する20、30代のラッパーたちは、Xの声を聴いて育ったにちがいない。
無二の友スウィズ・ビーツやイヴら、ラフ・ライダーズにおける長年の仕事仲間たちは追悼のコメントを発表した。いま、彼に影響を受けたアーティスト(それには、上で書いたようにヒップホップ以外の表現者も含まれるはずだ)や世界中のファンは、悲嘆に暮れているのではないだろうか。本当に、残念でならない。
数多くのアンセムを生み出したストレイ・ドッグの魂よ、どうか天国への道に迷うことなく、安らかに眠ってほしい。DMXフォーエヴァー。