2008~2017年と2019年の11回開催された音楽フェス〈WORLD HAPPINESS〉。高橋幸宏がキュレーターを務め、都市型フェスとして長年愛された催しだ。
そんな〈WORLD HAPPINESS〉のレガシーを収めた作品『WORLD HAPPINESS』が2025年6月6日、高橋の誕生日に合わせてリリースされた。ソロやYMOはもちろん、THE BEATNIKS、pupa、METAFIVEといった高橋が参加したバンド/ユニットのパフォーマンスが厳選され、音源と映像が集成された貴重なボックスセットである。
そんな歴史的な作品のリリースに際して、〈WORLD HAPPINESS〉にたびたび出演し、高橋とステージを共にしてきた鈴木慶一(ムーンライダーズ)とゴンドウトモヒコにインタビューすることができた。2人の証言から〈WORLD HAPPINESS〉が遺したものやその意義を伝えられればと思う。 *Mikiki編集部

幸宏さんのプロジェクトはいつも大変
――第1回目の〈WORLD HAPPINESS〉が開催されたのは2008年でしたが、それ以前に、お2人は幸宏さんから〈WORLD HAPPINESS〉の話を聞かれていたのでしょうか。
鈴木慶一「その年に初めて聞いた」
ゴンドウトモヒコ「僕もそうです」
――驚かれました?
鈴木「どんなフェスになるのか全くわからなかったよ。会場(夢の島陸上競技場)にも行ったことがなかったしね」
――お2人とも〈WORLD HAPPINESS〉の常連になりますが、第1回には慶一さんは一緒にアルバム『ヘイト船長とラヴ航海士』を制作した曽我部恵一さんと参加。ゴンドウさんは、anonymass、pupa、HASYMOという3つのバンドで参加されていて大忙しですね。
ゴンドウ「幸宏さんのプロジェクトはいつも大変ですから覚悟はしていました(笑)」
鈴木「第1回でいちばん印象に残っているのはpupaだね。メンバーは長年音楽をやってきた人たちだけど、演奏は非常に初々しい感じがあった。映像もサウンドもね」
ゴンドウ「第1回のpupaは不安でしかたなかったんです。サポートすることが多かったので大丈夫かなって。映像で見返すと結構まとまっているんですけど、それは演奏する人たちがちゃんとしていたからだと思います」
――慶一さんは、曽我部さんとのライブはいかがでした?
鈴木「客席というより、楽屋に演奏を届けたって感じだったね。今までとまったく違う音楽を始めたから、楽屋にいるミュージシャンに〈これを聴いてくれ!〉って。私たちの演奏を聴いて、みんなどう思うだろう?っていうのは頭の中にあった」
ゴンドウ「それで演奏を聴いて教授(坂本龍一)が楽屋から出て来たんですよね」
鈴木「そうそう(笑)。〈こいつら誰だ?〉って出て来たらしい」

――それは嬉しいですね! ゴンドウさんは、慶一さんと幸宏さんのユニット、THE BEATNIKSのアルバムに参加した縁で、〈WORLD HAPPINESS〉でもTHE BEATNIKSのサポートに入っています。慶一さん、幸宏さんと一緒にやってみていかがでした?
ゴンドウ「僕が初めて慶一さんにお会いしたのが2000年なんですけど、THE BEATNIKSのレコーディングだったんです。シーケンスが必要だというので呼ばれたんですけど、2人とも何も用意せずにスタジオで曲を作り始めるんですよ。懐の深い2人だなって思いました」
鈴木「深いというより、懐はいつも寂しいけどね(笑)」
――同じ幸宏さんのユニットでもpupaとは違いますか?
ゴンドウ「違いますね。THE BEATNIKSは同世代でやってる感じがすごくあって」
――映像を見ていると、慶一さんも幸宏さんも実に楽しそうに演奏していますよね。
鈴木「2人だとリラックスするんだよ。No Lie-Senseもそう。こっちがギターのエフェクターをチェックしている時に喋ってもらえたりもするしね」
――No Lie-Senseといえば2014年に台風のなかで演奏したんですよね。今回のボックスには収録されていませんが大変だったとか。
鈴木「2曲目でコンピュータが止まったんだよ。それでギター中心でやろうかと思ったら、舞台監督から〈危ないから中止にしましょう〉って言われた。突風で私とKERAの身体が浮いてたからね。KERAは夏フェスに初めて参加したのに大変な目にあった」
ゴンドウ「あの年は初っ端がPUFFYで、その段階で土砂降りだったんですよね。でも、PUFFYの2人は〈来いや!〉みたいな勢いで歌っててかっこよかった」
鈴木「No Lie-Senseのライブの時に当時の譜面を引っ張り出すんだけど、端の方が濡れてカピカピになってるんだよ(笑)。それを見るたびに〈WORLD HAPPINESS〉を思い出す」