GRAPEVINEが、通算19作目となるオリジナルアルバム『あのみちから遠くはなれて』をリリースした。“NINJA POP CITY”“天使ちゃん”とリスナーの度肝を抜く配信シングルを収録した本作は、前作に続いて高野勲がプロデュースを担当。またしてもGRAPEVINEの新たな切り札とも呼べる傑作が誕生した。

そんな一癖も二癖もある『あのみちから遠くはなれて』について、本作を聴いたライターの山口智男にその思いの丈を綴ってもらった。 *Mikiki編集部

GRAPEVINE 『あのみちから遠くはなれて』 スピードスター(2025)

 

アレンジやサウンドメイクはさらに大胆に

新しい果実』(2021年)の“ねずみ浄土”と『Almost There』(2023年)の“雀の子”。ともにR&Bをバックボーンに新たな音像を打ち出したその延長上で、スタジオワークを駆使したエキセントリックなアレンジやサウンドメイクは、さらに大胆になった印象だ。アルバムに自ら〈アミーチー〉と公式ニックネームをつけるくらいだから、1年8カ月ぶりとなる19thアルバム『あのみちから遠くはなれて』に対して、自信はもちろんだと思うが、GRAPEVINEのメンバー達はよほど愛着があるのだろう。

アンプで歪ませたブルースハープが冒頭から唸るように鳴るバイン流のトーキングブルースを、ストリングスも使いながらアーバンに展開してみせた先行シングル“天使ちゃん”がまず強烈だった。アルバムに対する期待は、ぐっと高まったに違いない。しかし、バンドはその斜め上を行くようにアルバム1曲目の“どあほう”から、リバーブをカットしたソリッドなギターにシンセを重ね、ニューウェーブサウンドを鳴らしてリスナーの意表をつく。3曲目の“ドスとF”はそんなニューウェーブサウンドとファンクの見事な折衷だ。“天使ちゃん”同様、閃きに満ちた言葉遊びでイメージをフリーキーに膨らませながら、辛辣なメッセージを忍び込ませるリリックも冴えている。

続く“わすれもの”ではエフェクト処理したデイヴ・フリッドマン的なドラムサウンドと流麗なストリングスを加え、胸を焦がすせつないメロディーとともにジャングリーなギターロックをもう一段上のレベルに持っていく。同じジャングリーなギターロックでも“my love, my guys”は本作中唯一オーセンティックなロックアレンジで逆に差を付ける。

 

GRAPEVINEの新たなスタンダード

GRAPEVINE流のアーバンなポップスと思わせ、不穏に鳴るアルペジオが聴く者の心を波立たせる“NINJA POP CITY”、バンドの演奏が白熱する粘っこいファンクナンバー“カラヴィンカ”、ピアノバラードがシタールの音色とともにサイケ風味を帯びる“はれのひ”。曲を重ねるごとに振り幅が大きくなっていく後半の流れは“猫行灯”と“追憶のビュイック”でついに混沌を極める。

オルタナサウンドがヘヴィーに鳴る“猫行灯”は〈祭囃子〉という歌詞からの連想だろうか、ワルツからラテンに変化する展開がぶっとんでいる。“追憶のビュイック”はアルバムの最後を静かに飾るバラードと思いきや、チェンバーポップからトラッドフォーキーに展開するプログレぶりもさることながら、カウンターメロディーを奏でるベース、アトモスフェリックなスライドギター、奔放なエレピ、ダイナミックなドラム――浮遊するような音像の中でインプロ風に絶妙に絡み合いながら、骨太な歌のバッキングにとどまらないアンサンブルがバンドの底力を物語る。

エキセントリックなアプローチを熱量の高いバンドサウンドに落とし込んだこの2曲を、ストイックなライブバンドでもある彼らがライブでどんなふうに演奏するのか、ぜひ聴いてみたい。

気付けば、アルバムの全曲について言及していたが、同じような曲は1曲もないのだからあたりまえ。デビューから28年、結成から数えれば32年のベテランが曲作りに対して、ここまで貪欲になれるのかとちょっと驚かされるが、それはすでに確立されている〈らしさ〉を追求するだけではつまらないとメンバー達が考えているということだろう。その貪欲さは今回、さらにぐっと一歩踏み込んだ印象もある。『あのみちから遠くはなれて』というタイトルからは、易々と王道を歩いたりはしないぞというバンドの矜持も感じられはしないか。

ここからの展開が楽しみになってきた。その意味も含め、『あのみちから遠くはなれて』は、GRAPEVINEの新たなスタンダードなのだと言ってみたい。

 


RELEASE INFORMATION

GRAPEVINE 『あのみちから遠くはなれて』 スピードスター(2025)

リリース日:2025年5月28日(水)
配信リンク:https://jvcmusic.lnk.to/Farfromanyroad

■初回限定盤(CD+DVD)

品番:VIZL-2441
価格:5,500円(税込)
3方背ブックケース仕様

■通常盤(CD)

品番:VICL-66067
価格:3,630円(税込)

■アナログ盤 ※ビクターオンラインストア限定販売
リリース日:2025年6月25日(水)
品番:NJS-821
価格:4,400円(税込)
販売ページ:https://victor-store.jp/item/101391
※購入特典:A2ポスター(ランダムで直筆サイン入り)

TRACKLIST
CD
1. どあほう
2. 天使ちゃん
3. ドスとF
4. わすれもの
5. my love, my guys
6. NINJA POP CITY
7. カラヴィンカ
8. はれのひ
9. 猫行灯
10. 追憶のビュイック
※アナログ盤はSIDE A:M1~M5、SIDE B:M6~M10

DVD ※初回限定盤のみに付属
〈LIVE AT UMEDA TRAD 2024〉
1. 吹曝しのシェヴィ
2. Time is on your back
3. Through time
4. 君を待つ間
5. 覚醒
6. Alright

 

LIVE INFORMATION
GRAPEVINE TOUR 2025

2025年6月21日(土)兵庫・神戸 Harbor Studio ※SOLD OUT
開場/開演:16:15/17:00
2025年6月22日(日)静岡・SOUND SHOWER ark 清水
開場/開演:16:15/17:00
2025年6月28日(土)広島・LIVE VANQUISH
開場/開演:16:30/17:00
2025年6月29日(日)香川・高松MONSTER
開場/開演:16:30/17:00
2025年7月4日(金)大阪・梅田クラブクアトロ ※SOLD OUT
開場/開演:18:00/19:00
2025年7月5日(土)愛知・名古屋クラブクアトロ ※SOLD OUT
開場/開演:16:15/17:00
2025年7月10日(木)東京・恵比寿LIQUIDROOM ※SOLD OUT
開場/開演:18:00/19:00
2025年7月12日(土)石川・金沢EIGHT HALL
開場/開演:16:30/17:00
2025年7月13日(日)長野・長野CLUB JUNK BOX
開場/開演:16:30/17:00
2025年7月20日(日)新潟・新潟LOTS
開場/開演:16:15/17:00
2025年7月21日(月)神奈川・横浜Bay Hall ※SOLD OUT
開場/開演:16:00/17:00
2025年9月6日(土)福岡・福岡DRUM LOGOS
開場/開演:16:15/17:00
2025年9月7日(日)鹿児島・鹿児島CAPARVOホール
開場/開演:15:30/16:00
2025年9月13日(土)北海道・札幌ペニーレーン24
開場/開演:16:30/17:00
2025年9月15日(月)宮城・仙台Rensa
開場/開演:15:30/16:00
2025年9月20日(土)岡山・岡山CRAZYMAMA KINGDOM
開場/開演:16:30/17:00

■チケット
スタンディング(前売):6,000円(税込、整理番号付、ドリンク代別)

 

GRAPEVINE TOUR 2025 extra show
2025年8月30日(土)東京・日比谷野外大音楽堂
開場/開演:16:00/17:00
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION http://www.red-hot.ne.jp/

2025年9月21日(日)愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
開場/開演:16:15/17:00
問い合わせ:サンデーフォークプロモーション https://www.sundayfolk.com/

2025年9月23日(火)大阪・大阪城音楽堂
開場/開演:16:00/17:00
問い合わせ:サウンドクリエーター https://www.sound-c.co.jp/

■チケット価格
指定席(前売):6,500円(税込)

■チケット販売スケジュール
オフィシャルFC先行(抽選):2025年5月28日(水)〜2025年6月5日(木)
オフィシャルチケット先行(抽選):2025年6月7日(土)〜2025年6月15日(日)
一般:2025年7月26日(土)~
チケット情報:https://linktr.ee/newsgrapevine

 


PROFILE: GRAPEVINE
1993年に大阪で活動開始。バンド名はマーヴィン・ゲイの“I Heard It Through The Grapevine”から借用。東京に拠点を移し、1997年9月にミニアルバム『覚醒』でデビュー。“スロウ”“光について”を含むアルバム『Lifetime』(1999年)は多くのリスナーを獲得した。2025年5月に通算19枚目のオリジナルアルバム『あのみちから遠くはなれて』をリリース。デビュー25年を超えた今も、アルバムをコンスタントにリリースし、精力的にツアーを行っている。現在のラインナップは田中和将(ボーカル/ギター)、西川弘剛(ギター)、亀井亨(ドラムス)、高野勲(キーボード)、金戸覚(ベース)。
アーティストリンク:https://lit.link/GRAPEVINE
オフィシャルサイト:https://www.grapevineonline.jp/