2. 新作『Mirror II』はジェフ・バーロウのスタジオでジョン・パリッシュと録音

新作のレコーディングにあたって、集中できる閉鎖的な環境を求めていたというバンドが選んだのは、ポーティスヘッドのジェフ・バーロウが所有するブリストルのインヴェイダ・スタジオ。共同プロデューサーにはジョン・パリッシュを迎えているが、それはメンバーの好きな作品を数多く手掛けていたのが理由だったという。

「選ぶのは難しいけど、俺はオルダス・ハーディングのアルバムが大好きで、最近よく聴いてる。昔だったらPJ・ハーヴェイの『To Bring You My Love』(95年)とかが好きだった。あれも大好きで聴きまくってたな。あのレコードは驚異的だと思う。ジェニー・ヴァルの『Innocence Is Kinky』(2013年)のプロデュースも最高」(ルイス)。

「彼って、複雑なソングライティングをするアーティスト達とよく仕事をしていると思うんだけど、今回はそれもすごく良い結果をもたらしてくれた。俺たち3人ともソングライターだし、3人が書く曲はそれぞれ違っているんだけど、彼はそこに統一感を出すことを助けてくれたと思う。俺たちに限らず、曲の全てにそのアーティストらしさをもたらすことが出来るプロデューサーが彼なんだと思うね」(ジェイムス)。

『Mirror II』収録曲“Psychic”

ところで、前作のレコーディング時、メンバーは大林宣彦監督の映画「HOUSE ハウス」(77年)の登場人物に倣ってお互いをニックネームで呼んでいたそうだが、ジョンにニックネームをつけるとしたら?

「そういえば一時期そうしてた! すごく短い期間、あの映画からインスパイアされてお互いをニックネームで呼び合っていた時はあったね。ライリーはビジーで、ジェイムスはレイジーで、俺はベンディーだった(笑)」(ルイス)。

「登場人物の名前がすごく素敵なの。〈オシャレ〉とか〈メロディー〉とか(笑)。ジョンは何かな。彼は〈オシャレ〉だと思う(笑)」(ライリー)

 

3. 影響源は裸のラリーズ × ジャスティン・ビーバー × シド・バレット?

ジェイムスが語る通り、グーン・サックスの特徴のひとつは、メンバー3人全員が曲を書いて歌えるということ。前2作では主にルイスとジェイムスがソングライティングを分け合っていたが、新作ではドラマーのライリーが本格的に曲作りに参加し、“Tag”と“Desire”の2曲ではリード・ヴォーカルも担当している。

『Mirror II』収録曲“Desire”

母親が日本に留学していたこともあり、小さい頃には新浦安に住んでいたというライリー。新作では母国のポップ・スターであるカイリー・ミノーグの他に、意外な日本のミュージシャンからも影響を受け、自分でもギターを弾くようになったという。

「友達の一人がノイズ・ミュージックが大好きだったから、私もノイズ・バンドでドラムをプレイし始めたんだけど、その友達が灰野敬二の大ファンだったんだよね。それでまず灰野敬二を知って、その流れで裸のラリーズも好きになった。そして、彼らのようにギターを弾いてみたくなってギターを弾き始めたというわけ。

彼らの音楽を聴いて、ノイズ・ミュージックとポップ・ミュージックって交わることが出来るんだって思ったし、ニュー・アルバムではあまり目立たないかもしれないけど、ギターは確実に水谷孝に影響を受けてる。灰野敬二だったら、私は彼の不失者の作品が好き。特に好きなのはアルバム『悲愴』(94年)。裸のラリーズで好きなのは、“Blind Baby Has Its Mother’s Eyes”」(ライリー)。

裸のラリーズの2003年のブートレッグ『Blind Baby Has Its Mother’s Eyes』収録曲“Blind Baby Has Its Mother’s Eyes”。曲名は正しくは“氷の炎”

対照的に、ベルリンに滞在していたルイスは現地のエレクトロニック・ミュージックに影響を受ける一方で、ジャスティン・ビーバーやThe 1975といったポップ・ミュージックからもヒントを得たそうだ。

「“In The Stone”はタクシーの中とか、クラブとか、パーティーとか、色々な場所で聞く会話についての曲。ジャスティン・ビーバーのレコード、特に“Sorry”(2015年)ではダンスホールのレゲトンのリズムがフィーチャーされていて、それがあの曲のインスピレーションの一部なんだ。あの曲は俺にとって逃避ができる曲で、聴いているとダンスホールに連れていってくれる。

それからツアーに出ていた時、イギリスのスーパーでThe 1975の“TOOTIMETOOTIMETOOTIME”(2018年)が流れてきた。あの曲のダンスホールのリズムが頭に残ったんだ。あとはメロディー。あのコード進行からは結構影響されたね」(ルイス)。

『Mirror II』収録曲“In The Stone”

そんな2人の間で異彩を放っているのが、ジェイムスの書くアシッド・フォーク的な楽曲だ。シド・バレットの大ファンだという彼が歌う“Temples”では、シド在籍時のピンク・フロイドのアルバム『夜明けの口笛吹き(The Piper At The Gates Of Dawn)』(67年)のタイトルの由来にもなったケネス・グレアムの児童小説、「たのしい川べ」について言及されている。

「シド・バレットは大好き。素晴らしいアーティストだと思う。『たのしい川べ』を読んだのもシドの影響。すごく刺激的な作品だったし、この世界から遠く離れたどこかに連れていってくれるのが魅力的に感じた。あの小説の登場人物はみんな人間なのに、動物みたいな暮らしをしている。それがすごくクールだと思ったし、自分の生活に関しても考え直させられたんだ。すごく素敵な小説だと僕は思うね」(ジェイムス)。