
奇跡の再会から1年——松隈ケンタ率いる福岡発ロック・バンドがエモーショナルな新作を完成! ありえなかった未来で音を鳴らす4人がいま見据える世界とは?
バンドって楽しい
2007年に無期限活動休止となっていた状態から昨年4月に復活作『13』をリリースした、松隈ケンタ(ギター)、井上マサハル(ヴォーカル)、北島ノリヒロ(ベース)、轟タカシ(ドラムス)から成る福岡のロック・バンド、Buzz72+。同月には松隈が主催するイベント〈サウンドスクランブル天神2020〉にて復活ライヴが予定されるも、そちらは緊急事態宣言の影響で開催中止となり、再会劇には思わぬブレーキがかかってしまった。結果的には8月に13年ぶりのステージを無観客の配信ライヴという形で実現。一連の流れを松隈はこう振り返る。
「〈サウンドスクランブル〉ができなかった時点で、メンバーも心折れたわけじゃないですけど、ズコーッて感じになって。若いバンドなら何クソで這い上がる気持ちにもなれますけど、僕らはそれぞれ仕事もありますし、仕切り直しってなると、一回〈無〉に戻る感覚になっちゃって。ただ、無観客ライヴも、あれはあれでエモい気持ちになりました。笑い話ですけど、売れない時代からやってる4人なんで客が少ないのには慣れてるんですよ(笑)。それこそPEDROの無観客で現場に行ったらアユニ(・D)がやり辛そうにしてて、羨ましいなと。俺たちなんか昔から無観客で何回もやってるから別に何とも思わんと(笑)。むしろBuzzが育ったDRUM Be-1をお借りして、昔からの知り合いやライヴハウスの人たちの前で演奏したので当時を思い出しましたし、初めての体験というところでは、チケットを買ってオンラインで観てくださってる皆さんの名前がわかるので、顔が見えてるみたいな感じもして。そこが新鮮でしたね」。
もちろん13年ぶりのパフォーマンス自体にも感慨があったのは言うまでもない。
「最初は〈練習しようか〉みたいなのも恥ずかしいんですよね。田渕ひさ子さんにも訊いたんですよ、NUMBER GIRL再結成の時ってどんな感じでしたか?って。最初はスタジオ入ってみんなシーンとしてて、向井(秀徳)さんが曲名を言った瞬間に一発で思い出してバンッて音が合ったみたいな感じだったそうなんですけど、うちらもそういう感じになったんですよね。当時より雑ではあるし、一人一人は間違えますけど、弾きだしたらグルーヴはピッタリで、覚えてるもんだなって。もっとプロやメジャーの世界だと、上手い人たちが譜面で覚えてきて合わせるのが当たり前なんで別のケミストリーも生まれますけど、全然練習してきてない奴らが思い出しながら弾いてるのに揃うっていうのは真逆で、バンドって楽しいなと思いました。〈この曲のここで誰かが遅くなるんだよな、そうそう、そんな感じだった〉みたいに思い出を語り合ってるような感じがあって。終わって飲んでてもその話で盛り上がったし、これはやってる俺たちにしか楽しめない話ですけど(笑)」。

そうしてマイペースに仕切り直し、改めて曲作りに臨んで完成したのが今回の新作『world』だ。4人だけの録音に徹した『13』に対し、今回は松隈の普段のプロデュース仕事と同じくシンセやストリングスも導入したアレンジの跳躍力が特徴となっている。
「この『world』というより、去年『13』を出した後の構想は最初からありました。『13』は〈過去のBuzz72+を思い出す〉のと〈4人だけの音でやろう〉というテーマがあって。僕が手掛けるWACKの曲とかはけっこう音が詰まってるんですけど、シンプルに4人でやる作品にしたかったんですね。それとは逆に、シンセがバキバキに入るとかプロデューサーライクな曲がやれるのも俺たちの強みだし、現在のBuzzをそうやって表現するのもおもしろいなっていうアイデアも最初にあって。なので4人だけで作った『13』の半年後ぐらいに、テクノロジーも駆使してできることを多彩に詰め込んだ〈カメレオン〉みたいな作品を出して、また次の年に4人だけで『14』を作って……みたいに考えてたんです。大人が楽しみながらちゃんと音楽をやるのがテーマなので、半年ずつ2種類の作り方で出していけば全員がストレスなくいろいろできるなと思ってたんですが、結局は半年後に出そうとしてたアイデアがズレ込んで今回の『world』になった感じですね」。
4人での共作
プロダクション主導とはいえ、もちろん骨子にあるのがBuzzらしいバンド・サウンドであることに変わりはない。
「昔の僕らはけっこうおもしろい作り方で、いまはデモをパソコンでガッチリ打ち込んで作れる時代ですけど、当時はそういう環境ではなかったので、スタジオで僕がコードだけ順番決めて、ドラムとベースにテンポだけ指定してセッション的にリズムをまず作るんですよ。その場でラフにメロを歌ったりイントロをギターで考えたりして。そうやってメンバーたちから出てきたリズム・トラックを録音して持ち帰って正式な歌メロを書く作り方でしたね。再結成してからも昔の作り方を試してみたんですけど、そこは毎週リハーサルして顔を合わせてた頃とは違ったので、今回は僕のほうでガッツリ作ったデモから広げていく形でやりました。メンバーが気を遣ってデモに忠実に演奏したら〈デモと同じでつまらん!〉って変えさせたりしましたけど(笑)」。
今回『world』に収録の5曲は、無観客ライヴでも披露した“月光”を除けば仕切り直し後に生まれたもの。なかでも“サンライズ”と“Don't be afraid”は〈福岡ソフトバンクホークス公式中継テーマソング〉に選ばれ、〈パ・リーグTV〉のダイジェストにも使用されている。福岡に拠点を戻して以来、アビスパ福岡の公式応援ソング“つわものたちの唄”や地元のエンタメ業界を支援するチャリティー曲“Beat goes on”(演奏と編曲はBuzzが担当)、ばってん少女隊の新曲“FREEな波に乗って”など、地元に根差した楽曲も多く手掛けている松隈だが、ホークスの大ファンとしても知られる野球好きだけに、気合いのギアも違っていたようだ。
「福岡に拠点を戻してからホークスさんと仕事したいなっていろんなところで言ってたんですね。スクランブルズの草野球部でPayPayドームを借りたのも関係があったんじゃないかと思うんですけど(笑)、曲作れる奴がいるってホークスさんサイドにも知っていただいて、曲よりはバンドをプレゼンさせていただいた形でした。今回はいろんな人に聴いてもらえる機会なので、無理にBuzz72+っていう我を出すよりもホークスに寄せていって。タイアップってどうしてもアーティスト・イメージと離れるというか、自分たちの言葉とクライアントの求める言葉って一致しなくて普通なんですけど、僕らは4人ともホークスのファンなので、そこが嘘偽りなく100%一致するっていう奇跡的な展開で(笑)。なので“サンライズ”は歌詞も全員で書きました。ホークスのイメージで書いた歌詞を出し合って僕が一つのストーリーにまとめたって感じで。4人での共作というのは初めての試みかもしれないですね」。
その“サンライズ”はストリングスも備えたドラマティックな松隈節に井上のピュアな熱唱が冴え渡るラウドなナンバーで、井上と北島が作詞した“Don't be afraid”はポジティヴに未来を見据えるアップ・ビートな仕上がり。「状況に打ち勝っていこうっていう気持ち」を表現した楽曲に漲る熱いパワーは選手のプレイのみならず誰しもの日常を鼓舞するものだろう。この2曲の華やかなスケール感が軸となることで、それ以外の楽曲も個性の彩りを発揮している。
「曲はもうちょっと作ったのかな。過去の曲もまだまだあるんでリメイクしてもいいかなと思いつつ、ホークスの2曲が主軸としてあるので全体のヴァラエティー感を考えて、ミディアム・バラードな“僕らは星をみている”があり、しゃがれたヴォーカルで尖ったものに振り切ってみた“world end”があって。“月光”は僕が作りそうなストレートでテンポ感のいいロックですし、統一感というよりは5曲を散らした感じですね」。
純粋に音楽を楽しむこと
そんな振り幅も再録曲メインだった『13』とは異なる若々しい円熟に繋がっている。
「若さは出てるかもしれないですね。40過ぎた大人たちがけっこう新しいところに挑戦してる感覚はあって、みんな初々しくやれましたね。昔はハルと揉めてた歌録りも楽しかったし。“world end”なんかはけっこう細かくディレクションして本人も楽しくなって、昔はそれで険悪になってたのとは真逆でしたね(笑)。結果、ハルの尖った一面がさらに尖った感じで良かったです。今回はみんなが〈これは入れたい〉って後押ししたもんで選んだ曲もあるし、バラバラになるかなと思ったら5曲並べてバシッとひとつの作品になったので、そこは意外でしたね。そういう意味でいつもの僕のプロデュースっていう感覚よりメンバーやスタッフの客観性が柔軟に入ってて。曲順もスクランブルズのsomeに考えてもらったんで、僕らもしっくりきてないんですけど(笑)、それもまたいいなと思ってますね」。
そんな5曲を結わえる『world』というタイトルについてはこう説明する。
「今回は轟くんも“サンライズ”に関しては歌詞を書いてますし、あえて作品に統一のテーマを課さないぶん、4人の言葉を散らしたいなっていう考えがあって。そういう意味で雑多なEPなんですけど、結果的に、たまたまほとんどの曲に〈世界〉っていう言葉が入ってたんですよね。ハルとノリが共作した“world end”もありますし。これは僕のイメージですけど、〈世界は終わりだ〉っていうことではなくて、世界がそのまま元に戻らず進んでいく〈始まり〉という意味での“world end”なのかなっていう。そういう意味も込めた『world』ですね」。
なお、本作のリリース後には待望の有観客ライヴとなる〈JUNCTION 2021〉も福岡DRUM Be-1とZepp Tokyoの2か所で開催されたばかりのはず。東京ではPEDROとの対バンとなるが、4人のスタンスに変わりはないという。
「大きい会場でいっぱいお客さんが来てくださるのは嬉しいですけど、いい意味で野望がないというか、14年ぶりに4人で人前に立つこと自体がありえなかった未来なので、この4人でステージに立たせてもらえる奇跡がありがたいし、そこに立ったらどうなるのか自分たちが見てみたいというワクワク感がデカすぎて、それがやっぱりバンドの良さかなと思いますね。あと、僕個人としては3年前に福岡に帰ってから若いバンドの発掘育成にも力を注いできたので、Buzz72+を筆頭にしたレーベル的な動きを展開していく構想があります。やっぱり上からプロデューサー目線でやるより、自分もステージで同じ目線に立たないと真の盛り上がりには繋がらないと思って、それもBuzz72+をまたやりたくなった理由だったんですよ。福岡でずっとやってきたscramble edgeのチームが形を変えてレーベルに代わる予定で、そこから数バンド、あと、スクランブルズのスクール生にHack the Ceremonyっていう3人組がいて、PEDROのドラムの毛利(匠太)やスクランブルズで作詞作曲をしてる永井葉子がいるバンドなんですけど、彼らも合流する予定です。コロナ禍のうちは動きも限られますけど、イヴェントや配信も含めた動きを福岡から作っていきたいし、純粋に音楽を楽しむことができるBuzzの利点も活かして、一緒におもしろいことやりたいっていう人間が集まってエンターテイメントしていけたらなっていうのが、いま僕個人として考えてることですね」。
Buzz72+の2020年作『13』(SCRAMBLE)