8か月ぶりの有観客ライブで、熱いインタープレイが炸裂
コロナ・パンデミックで、NYのライブ・ジャズ・シーンは昨年3月から、完全に停止した。現在は、ワクチン接種が進み、この6月下旬から各ジャズ・クラブは再始動し、また夏のフェスティヴァル・シーズンも、戻りつつある。昨年11月末、アルト・サックス・プレイヤーのジム・スナイデロは、まだ厳しい状況下、感染率の低い、NYCから車で1時間ほどのペンシルヴェニア州で、およそ8か月ぶりの観客を前にしたギグを敢行し、その熱気をライブ・アルバムとしてドキュメントしたのが、本作だ。
かつて、秋吉敏子オーケストラや、ミンガス・ビッグ・バンドの中枢メンバーとして名を馳せ、自らのリーダー・グループを率いて、アコースティックでオリジナルなコンテンポラリー・ジャズを追求していたスナイデロは、長年の盟友であるピーター・ワシントン(ベース)とジョー・ファーンズワース(ドラムス)に、近郊のフィラデルフィアからオリン・エヴァンス(ピアノ)を召集した。8か月のブランクを鑑みて、あえてオリジナル曲は封印し、観客たちにも親しみがあるスタンダード・ナンバーで固める。ワシントンとファーンズワースは、長年共演し鉄壁のリズムを生み出す。エヴァンスは、彼らと同じNYのジャズ・クラブ〈スモーク〉の常連出演者でありながら、実は初共演だったそうだ。NYスタイルのソリッドなリズムの上で、フィリー・ソウルに溢れるアーシーでフレキシブルなリズムのエヴァンスのプレイに、美しいスナイデロのメロディが加わり見事なケミストリーが巻き起こった。ビバップ/ハード・バップの枠組みの中で、コンテンポラリー・ジャズの方法論に基づくインタラクティヴなプレイが展開される。店のキャパの50%ながら、60人ほど集まったライブ・ミュージックを渇望する観客と、客席からの刺激を求め続けていたアーティストたちが渾然一体となり、熱いヴァイヴレーションが交わされた。まさに暗雲漂っていた2020年の秋に射し込んだ、一筋の光のようなパフォーマンスだ。ライブ・ジャズの素晴らしさを、再認識させてくれる一作である。