繊細にしてシネマティックな世界を構築する音楽家m/lue.(ミリュー)が初のミニアルバム『あいだ』を完成させた。iPhoneのGarageBandを使って生楽器と環境音を重ね、メロディーとポエトリーリーディングで言葉を紡いだファーストEP『Zawameki』(2020年)が〈Maltine Reocrds〉のtomadの耳に届き、新レーベル〈SOLANO〉からリリースされたセカンドEP『hibi』(2020年)が静かな話題を呼んでいたm/lue.。『hibi』ではTomgggが編曲を担当していたが、『あいだ』ではピアノ、ギター、ベースといった楽器を自ら演奏し、アレンジまでをすべて担当していて、音楽家としての本当の第一歩を刻んだ作品となっている。

m/lue.という名前の由来が〈中間〉を意味するフランス語のmilieuであるように、『あいだ』はタイトルからして彼女の本質的な部分が反映された作品だと言える。白と黒に分けられる時代の中で曖昧さを許容し、人との距離を見つめ直して、自分が自分であることを肯定する本作は、聴き手の一人ひとりに寄り添ってくれる作品だ。喜びと悲しみの、夢と現実の、生と死の、キミとボクの〈あいだ〉から、m/lue.の物語が今始まる。

 

音楽を作ることはセラピーのようなものだった

――m/lue.さんがご自身で音楽を作るようになったのはいつごろだったのでしょうか?

「去年出した『Zawameki』に入ってる曲が初めて自分でちゃんと作った曲で、一昨年の10月くらいに作りました。今もなんですけど、それまではずっと役者をやってたんです。20歳のときに京都の大学を中退して、何も決まってなかったんですけど、役者をやるために上京して」

――昔から役者をやりたいと思っていて、決断をしたのがそのタイミングだったわけですか?

「いや、大学は経営学部で、卒業したら普通に働くと思ってました。でも、大学では周りとのギャップを感じることが多くて、それまで見ないフリをしていた自分の感情と改めてちゃんと向き合ったときに、役者をやりたいと思ったんです。でも、サークルとかだと中途半端になると思ったので、やるんだったら東京に行こうと」

取材場所:株式会社デリシャスカンパニー オフィス

――音楽はもともとお好きだったんですか?

「4歳からピアノを習っていて、ずっとクラシックをやってました。ラヴェルの“水の戯れ”がすごく好きで。なので、音楽の方がずっと自分の近くにあって、お芝居はむしろちょっと背伸びをした気持ちで始めました。ただ、子供の頃からディズニー映画がすごく好きで、あとおじいちゃんの影響で歌劇もすごく観ていて、ミュージカル映画は今もすごく好きなので、もともと音楽と芝居の両方あるのが自分の中で自然だったんだと思います」

モーリス・ラヴェルのピアノ曲“水の戯れ”
 

――クラシック以外だとどんな音楽に触れてきましたか?

「中学生のときに『タイヨウのうた』という映画が上映されて、友達に誘われて観に行ったらYUIさんが好きになって、そこから女性ボーカルの人にハマりました。高校生からはベースを始めて、チャットモンチーとか相対性理論を聴いてましたね」

YUIの2007年作『CAN’T BUY MY LOVE』収録曲“Good-bye days”。映画「タイヨウのうた」の主題歌
 

――では改めて、役者をやるために上京してきたm/lue.さんがなぜ自分の音楽を作るようになったのでしょうか?

「役者は人に選ばれないと作品に出ることすらできなくて、結果が人に委ねられた状態でずっとやってきてたんですよね。言葉も全部脚本家さんが書いたものを読むわけですけど、自分の言葉を発信する場所としてSNSはどうもしっくり来なかったり、あとは人間関係も……〈役者と監督・プロデューサー〉みたいに、肩書きがはっきりとした関係性の中にずっといると、〈自分は本当にこれだけなんだろうか?〉みたいに思ってしまい、〈自分で自分を認める〉ということができなくなってしまって、すがるように曲を作り始めたのが最初でした」

――音楽を作ることがある種のセラピーのようなものだったと。

「そうですね。なので、〈音楽を作りたいから〉という気持ちではなくて、〈自分を表現するための一番身近にあったツール〉という感じだったと思います。実家で母親が昔弾いていたアコギを見つけて、それだけ持って東京に出てきたような感じだったんですよ。全然弾けなかったんですけど、気に入った3音くらいを鳴らして……」

――ベースを弾くような感覚で。

「そうです、そうです。それで〈この組み合わせの音が好き〉というのを見つけたら、そこに言葉を乗せて、そうやって作り始めたのが『Zawameki』だったんです」

 

m/lue.の音楽はYUIとテニスコーツの中間?

――m/lue.さんの楽曲の特徴のひとつとして、ポエトリーリーディング取り入れられているということがありますが、それは役者の経験から来ているものなのでしょうか?

「特に何かを狙ってやろうと思ったわけではなくて、さっきも言ったように、SNSに自分の言葉を乗せることにずっと違和感があって、その代わりに詩みたいなものを書くことがあって。その言葉をただ音に乗せるということをしたときに、初めてしっくり来たのが大きいと思います」

――もうひとつ、フィールドレコーディングの音を入れていることに関しては何か狙いがありますか?

「曲を作るときは物語をイメージするというか、シーンを思い描いて、それを音にするというやり方なんです。聴いてくれる人に答えのようなものを提示したいわけではないんですけど、とはいえ音楽は映画と違って音しかないから、環境音を入れることで想像が膨らむというか、景色が広がるヒントみたいなものになればいいと思って入れています」

――m/lue.という名前には〈中間〉だけでなく〈環境〉という意味もあるそうですが、もともと環境音楽がお好きだった、とかではない?

「ではないです(笑)。あんまり知らなかったんですけど、でもテニスコーツが好きで、『Zawameki』を作る前はよく聴いてました」

テニスコーツの〈A Take Away Show〉での演奏映像。曲は2007年作『Tan-Tan Therapy』収録曲“Baibaba Bimba”
 

――あ、それは納得です。でもテニスコーツとかってどうやってリーチしたんですか? 今のところ、情報が高校時代のチャットモンチーと相対性理論で止まっているので(笑)。

「東京に来てからしばらく音楽を聴いてなかったんですけど、前にバンドに誘われたことがあって。大所帯のバンドで、みんなバラバラ過ぎて、すぐ終わってしまったんですけど、そのときにいろいろ音楽を教えてもらったんです。フィッシュマンズとかもそこで初めて教えてもらって、テニスコーツも教えてもらいました」

――〈YUIとテニスコーツの中間〉と言われたら、m/lue.の音楽がイメージできるかも(笑)。じゃあ、ある意味すがるように『Zawameki』を作ったことによって、m/lue.さんの中で音楽の存在が大きくなっていったわけですか?

「作ってるときがホントに楽しくて、そのときだけは自由な気持ちになれたんです。良し悪しもよくわからないから、作れたらそれでいいと思っていたので、ちょっとずつ出来ていくことだけでも嬉しくて」