シンガーソングライターのm/lue.(ミリュー)が初のフルアルバム『Ghost of Time』を完成させた。ミニアルバム『あいだ』から4年ぶりとなる本作は、日本のインディフォーク/アンビエントポップにおける新たな才能の登場を強く印象付けるに十分な作品だ。
iPhoneのGarageBandを使い、ミックスとマスタリング以外は一人で制作した『あいだ』に対し、『Ghost of Time』ではLogic Proを用い、Khamai Leonのメンバーとしても活動する赤瀬楓雅とbejaが演奏・エンジニアリングで貢献。ジャズやクラシックの下地を持つ音楽家との邂逅により、m/lue.のイメージしていた音世界がより解像度高く具現化されている。
また、〈遠くにいる誰かや知らないどこかを想像する〉ことをテーマに、〈場所〉や〈記憶〉を空間的なサウンドと鋭い言葉で表現しながら、聴き手に寄り添うパーソナルな質感がしっかり刻まれていることも素晴らしい。
本作に至るまでの作り手としての成長と心の動きについて、m/lue.にじっくり語ってもらった。

目をそらしてきた戦争がリアリティをもって自分の中に入ってきた
――『あいだ』のリリースからの4年間は、m/lue.さんにとってどんな時間でしたか?
「『あいだ』をリリースしたときはまだiPhoneのGarageBandで曲を作っていたので、もう次のステップに行かないといけないなと思っていました。なので、まずはLogic Proを購入して、マイクとオーディオインターフェイスをつなげるところから始めました。
あとは自分が本当に好きな音楽、作りたい音楽をずっと探していて、ザ・ウェザー・ステーションとカサンドラ・ジェンキンスにたどり着いて。特にカサンドラ・ジェンキンスの“Hard Drive”を聴いたときに、私はこういう曲を作りたいと思ったんです。自分が悩んだとき、つまずいたとき、挫折したときに、救いになるような曲を作りたいんだなって。
それから、京都であったブライアン・イーノの個展(〈BRIAN ENO AMBIENT KYOTO〉)がすごく好きで。『The Ship』をもとに作られた空間があったんですけど、こういう広がった空間にも自分は興味があるなと思ったり。
そうやって好きなものを一つずつ見つけていくことをしていたら……ウクライナとロシアのニュースがポンって入ってきたんですよね。そのときに、〈あ、戦争って起きるんだ〉って、すごくリアリティをもって自分の中に入ってきて。それと同時に、戦争はずっと起きてたんだけど、目をそらしてきた出来事だったと思って、そこから書いたのが“亡霊”でした」
――『あいだ』はミックス・マスタリング以外を一人で手掛けた作品でしたが、“亡霊”からKhamai Leonのメンバーである赤瀬楓雅さんとbejaさんが参加していますね。
「次は人と作りたいなとずっと思いつつ、なかなか出会うきっかけもなかったんですけど、赤瀬さんはSNSでつながっていて、私の初めてのライブに来てくれたんです。それである日自分の作ったデモ曲をインスタで送ってみたら、〈いいですね〉っていう反応が……来たり来なかったり(笑)。
そのやりとりが何回かあって、〈一緒にスタジオに入りませんか?〉って、声をかけたんです。そのとき“亡霊”の前半部分はできてたんですけど、そこから先は一人では自分の思い描くようにできないと思ったんですよね。そうしたら、私の歌に合わせてすごくいいドラムを叩いてくれて、〈一緒に作りたい〉と思いました」
――じゃあ、bejaさんは赤瀬さんからの紹介?
「そうですね。〈誰かにミックスをお願いしたい〉って言ったら、bejaさんを紹介してくれて。ただ最初bejaさんは“亡霊”をすごく壮大にミックスしてくれて、私としては〈違う〉と思ったんです。そのときはそれをどう伝えていいのかもわからない状態だったんですけど、bejaさんが漠然としたニュアンスのことも色々聞いてくれて、一緒に考えながらミックスをしてくれたので、アルバムもお願いしたいと思いました」