Photo by Chris Bilheimer

全キャリアで最も多彩なサウンド

本編に話を戻そう。『New Adventures In Hi-Fi』はそんな変則的な経緯で生まれたアルバムであるがゆえに、ブックレットには曲ごとにレコーディングされた町の名前が記載され、それぞれ異なる環境で作られたことがサウンドに如実に表れている。全キャリアで最も多彩なアルバムになったのは、当然の成り行きだろう。公演地でライブ録音された曲は明らかに粗削りで、マイケル・スタイプ(ボーカル)の声も連夜のパフォーマンスのせいか普段よりもテクスチュアに富んでいるのに対し、スタジオでの作業を経た曲はより作り込まれ、後者に該当する冒頭の“How The West Was Won And Where It Got Us”では早速、シンセサイザーを初めて本格的に導入。そう、本作からはピーターのアルペジオギターがリードする“Bittersweet Me”や、マイク・ミルズ(ベース)のお馴染みのコーラスが効いた“Departure”といった典型的なR.E.M.節が聴こえる一方で、変化球も次々に繰り出される。グランジーなブルース仕立ての“Low Desert”から、パティ・スミスの祈祷にも似たゲストボーカルも相俟ってドローン感溢れる“E-Bow The Letter”、彼らにしては珍しいロマンティックなバラード“Be Mine”に至るまで。全編に何かしら共通項があるとしたら、随所に織り込まれた不協和音やフィードバックノイズの摩擦感が、時間や場所の感覚が麻痺していくツアー生活のカオスを醸していることだろうか?

『New Adventures In Hi-Fi (25th Anniversary Edition)』収録曲“How The West Was Won And Where It Got Us”“E-Bow The Letter”

 

マイケル・スタイプが歌う〈人生の旅〉

またマイケルが綴った言葉には、いかにもトラヴェローグ的な歌詞(“Departure”)や、旅先からの手紙のような歌詞(“E-Bow The Letter”)も多々ある。でも彼が描こうとしているのは恐らく、より大きな意味での旅、人生の旅だ。過ちを犯したり、深く傷ついたり、追い詰められたり、目的を見失ったりして転機に立ち、変化を求め、答えを探しているキャラクターたちに、マイケルは次々に引き合わせる。そして優美なフィドルのソロで彩ったフィナーレの名曲“Electrolite”は、その不協和音やノイズによって増幅された彼らの不安と葛藤を大らかに受け止めて、静かなカタルシスに導くのだ。終わりゆく20世紀に別れを告げていると解釈できるこの曲の主人公は未来に希望を見出し、〈僕は怖くない/ここから出て行く〉と歌って、新たな旅を始める。そんなフィナーレは、このあとビルが脱退してトリオで再出発し、本作で着手したエレクロニックサウンドでの実験を11枚目の『Up』(98年)に引き継いでさらに変化を遂げていくバンドの次なる展開を、うっすらと予告していたかのようでもある。

『New Adventures In Hi-Fi (25th Anniversary Edition)』収録曲“Electrolite”

それにしても四半世紀を経るとさすが、時の流れを実感できる瞬間が幾度かあった。例えば“New Test Leper”の主役は、テレビのトーク番組に出演して、司会者に侮辱されているトランスジェンダー男性。今やメディアで性的マイノリティーを差別することなど許されないわけで、2020年代には成立し得ない曲だ。マイケルの言葉から90年代のアメリカがふと垣間見える、そんなアルバムでもある。

『New Adventures In Hi-Fi (25th Anniversary Edition)』収録曲“New Test Leper”

 


RELEASE INFORMATION

R.E.M. 『New Adventures In Hi-Fi (25th Anniversary Edition)』 Concord/ユニバーサル(2021)

リリース日:2021年10月29日
品番:UCCO-8044/5
仕様:2 SHM-CD
価格:3,850円(税込)

配信リンク:https://lnk.to/REM_NAIHFPR

TRACKLIST
Disc 1
1. How The West Was Won And Where It Got Us
2. The Wake-Up Bomb
3. New Test Leper
4. Undertow
5. E-Bow The Letter
6. Leave
7. Departure
8. Bittersweet Me
9. Be Mine
10. Binky The Doormat
11. Zither
12. So Fast, So Numb
13. Low Desert
14. Electrolite

Disc 2
1. Tricycle
2. Departure (Rome Soundcheck)
3. Wall Of Death
4. Undertow (Live)
5. Wichita Lineman (Live)
6. New Test Leper (Live Acoustic)
7. The Wake-Up Bomb (Live)
8. Binky the Doormat (Live)
9. King of Comedy (808 State Remix)
10. Be Mine (Mike On Bus Version)
11. Love Is All Around
12. Sponge
13. Leave (Alternate Version)

 

デビュー40周年を記念し、スコット・リットとR.E.M.の共同プロデュースアルバム5作品を初ハイレゾCD化!

R.E.M. 『Green(UHQCD x MQA-CD)』 Concord/ユニバーサル(2021)

リリース日:2021年10月29日
品番:UCCO-46001
価格:3,300円(税込)
※2013年リマスター音源を使用

 

R.E.M. 『Out Of Time(UHQCD x MQA-CD)』 Concord/ユニバーサル(2021)

リリース日:2021年10月29日
​品番:UCCO-46002
価格:3,300円(税込)
※2016年リマスター音源を使用

 

R.E.M. 『Automatic For The People(UHQCD x MQA-CD)』 Concord/ユニバーサル(2021)

リリース日:2021年10月29日
​品番:UCCO-46003
価格:3,300円(税込)
※2017年リマスター音源を使用

 

R.E.M. 『Monster(UHQCD x MQA-CD)』 Concord/ユニバーサル(2021)

リリース日:2021年10月29日
​品番:UCCO-46004
価格:3,300円(税込)
※2019年リマスター音源を使用

 

R.E.M. 『New Adventures In Hi-Fi(UHQCD x MQA-CD)』 Concord/ユニバーサル(2021)

リリース日:2021年10月29日
​品番:UCCO-45003
価格:3,300円(税込)
※2021年リマスター音源を使用

 

R.E.M. 『The Best Of R.E.M. At The BBC』 Concord/ユニバーサル(2021)

リリース日:2021年10月29日
​品番:UCCO-2042/3
仕様:2 SHM-CD
価格:3,630円(税込)