Photo by Chris Bilheimer

2011年に解散した伝説的なオルタナティブロックバンド、R.E.M.が、キャリアの後期の幕開けにあたる96年に作り上げた傑作『New Adventures In Hi-Fi』。本作の発表から25周年を記念して、2枚組の特別盤がリリースされた。オリジナルメンバーの4人で制作された最後の作品であり、新たな一歩を踏み出したアルバムでもある本作は、どのようにして生まれ、彼らはここで何を表現していたのか? 音楽ライターの新谷洋子が解説した。  *Mikiki編集部

R.E.M. 『New Adventures In Hi-Fi (25th Anniversary Edition)』 Concord/ユニバーサル(2021)

 

一つの時代の最終章であり最も特異なアルバム

今年リリース25周年を記念してリイシューされた10枚目『New Adventures In Hi-Fi』がR.E.M.にとってどんなアルバムなのかと問われれば、まず、ビル・ベリー(ドラムス)を含む4ピースとして制作した最後の作品であることを指摘できる。『Document』(87年)以降6枚に関わった、盟友スコット・リットとの共同プロデュース作品もこれが最後だった。そういう意味では一時代の最終章と位置付けることができるのかもしれない。でもそれ以上に、30年に及ぶ彼らのキャリアにおいて最も特異なアルバムだという事実を、筆頭に挙げるべきなのだろう。しかもそれが、当時の史上最高額(5枚で8千万ドル)でレーベルとの契約を更新してから最初のリリースだったというのも、非常に興味深い。R.E.M.のようなバンドが史上最高額を得たこと自体が今や隔世の感があるが、マス向けの作品を作る素振りを見せなかったバンドのスタンスは特筆するべき点だと思う。

『New Adventures In Hi-Fi (25th Anniversary Edition)』トレーラー

 

ロック界を代表するバンドの〈新たな冒険〉

そもそも本作を特異なアルバムにしたのは、タイトル通りに〈新たな冒険〉と呼ぶに相応しい、その制作方法だ。81年のデビュー以来じわじわと支持層を広げ、『Out Of Time』(91年)と『Automatic For The People』(92年)の大ヒットで〈カレッジシーンの雄〉から、U2と並ぶロック界の二大バンドというポジションに上りつめたR.E.M.は、続く『Monster』(94年)でそれら2枚のアコースティックに寄ったメロディックでメロウな表現から、ラウドなロックンロール路線にシフト。売れる路線にとらわれない姿勢を印象付けると、次にピーター・バック(ギター)の提案を取り入れて、6年ぶりのツアー〈Monster Tour〉の道中にニューアルバムを作り上げるという試みに乗り出すのである。95年1月に始まったこのツアーの前半には、ビルが脳動脈瘤破裂で倒れるという事件が起きて中断を余儀なくされたが、再開して北米各地を回った後半、サウンドチェックの場で、楽屋で、彼らはサポートメンバーのスコット・マッコーイら交えて曲を書き、精力的にレコーディングを敢行。そして、ツアー終了後にスタジオで追加のセッションを行なった末に本作を完成させている。

ちなみに今回の25周年リイシュー盤のボーナス音源には、同ツアーからのライブパフォーマンス音源を多数収録。誕生したばかりの曲を、4人がどんどんステージで披露してファンと分かち合いながら練っていたことを示唆している。またここに収められた“King Of Comedy”のリミックス(『Monster』の収録曲ではあるがリミックスは“Electrolite”のシングルB面に使われた)には意外にも808ステイトが起用され、原曲のファンキーさを活かして見事にアシッドハウス色に塗り替えられており、当時のメンバーがいかにオープンマインドだったか分かるというものだ。

『New Adventures In Hi-Fi (25th Anniversary Edition)』収録曲“King Of Comedy (808 State Remix)”