長野県生まれ、滋賀県育ち。現在は東京、札幌、滋賀を行き来して、ピアニストとして活動を続ける。経歴を見ると、若くしてジャズに取り組み、リーダーのトリオを中心に、メンバーとして参加するバンドでの演奏に加え、小山彰太(ドラムス)とのデュオなどと、そもそもとてもオープンなスタイルの持ち主であることが窺える。2016年にトリオでのアルバム『Preface』をリリースしたのち、2020年ピアノソロによる完全即興のアルバム、『Incidentaly』、『Incidentaly 2』の2枚をリリースし、そのシリーズの最新作を2021年に録音、リリースしている。
完全即興。完全に真っ白の状態になってピアノを即興演奏する。こういう真空をアルバム制作の起点に録音し、作品として発表するピアニストはキース・ジャレットを筆頭に数多く存在する。もちろん全てのアーティストにとって真っ白な状態は、架空の状況設定だろうが、そういう不思議な設定を時に必要とする理由は一体なんだろう。
アルバムを見ると、本山のこの3枚のアルバムには、Improvisationとトラックナンバーだけが記された24のトラックが並ぶ。その佇まいは、即興演奏の饒舌なイメージはどこかに消えて、河原温の日付だけが記されたカンヴァスのように静かだ。そして最新作を聴けば、攻撃的な演奏の合間に時折り挟まれたバラード、中断したのかと思うような呼吸の瞬間に、そのミニマルな叙情が聴こえた。挙句、即興の全てを聴き、そこに同じような音楽の形を見出せば、それが彼の音楽のケーデンスで、その形を現状、なんらかの形で指摘することは面白いことかもしれない。
しかし、彼が続けるこの演奏、この録音の面白さは、いつかあらぬ方向へと飛躍するために集積された過去と鏡像関係にある、まだ聴こえてはいない未来が、聴くたびにカップリングされて現れる二重性にあると思う。だから終って欲しくない……。
2021年12月13日追記
*本山禎朗『Incidentally 3』のレビューについてのお詫び
前号(vol.154)でこのアルバムを紹介した際、基本的な情報を誤って引用しました。今回このレビューをもちまして改めて紹介し、訂正させていただきました。関係者各位にお詫び申し上げるとともに、このアルバムがたくさんの人々に届く一助となれば幸いです。 *intoxicate編集部