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三宅伸治

ホーンが入ったバンドで清志郎がシャウトする“Baby何もかも”

――『KING』を初めて聴いたとき、1曲目“Baby何もかも”のホーンセクションが入ったバンドサウンドで歌う清志郎さんに感激しました。多くのファンがそう感じたのではないでしょうか。

「ブルーノート東京でやったブルース・ブラザーズのライブに、ボスがゲストで出たことがあったんです(2003年1月)。僕は観に行けなかったんですけど、ボスがそのライブを録画していて。それをロッ研で一緒に観てたときに、〈やっぱりこういうホーンセクションが入ったバンドでシャウトするのが、良いですよね〉という話をした覚えがあります。それが頭の片隅にあったことが、たぶん“Baby何もかも”を作るきっかけになったんじゃないかと思います」

『KING Deluxe Edition』収録曲“Baby何もかも”

――“Baby何もかも”の後半で、RCサクセション“指輪をはめたい”のライブアレンジと同じ展開になるのが、すごく印象的だった理由の1つだと思います。

「そうですね。もともとは、オーティス・レディング“Try A Little Tenderness”とかサム&デイヴ“That Lucky Old Sun”とか、ソウルミュージックにはそういう曲がありますよね。RCもそこからヒントを得てそういうアレンジをしたと思いますし、“Baby何もかも”は最初から、そのアレンジありきで頭から作ってる感じです」

――後半の展開も含めて、最初から考えられていたということでしょうか。

「はい。だから、後の展開と全然関係ないイントロで始まるじゃないですか? そういうのって、ソウルにはありがちですよね」

――よく考えたら、“Baby何もかも”みたいなバラードで始まる清志郎さんのアルバムってそれまでにないですよね。

「“Baby何もかも”を1曲目にしようと言ったのはボスです。ザ・バンドのファーストアルバム(68年作『Music From Big Pink』)をよく一緒に聴いていて、〈これが1曲目ってすごいよなあ〉って言ってたんです(1曲目は“Tears Of Rage”)。そういう会話が仕事に繋がってますね」

 

“ジグソーパズル”に“ギブミーラブ”、珠玉の未発表曲の秘話

―― “HB・2B・2H”以外は清志郎さんと三宅さんの共作となっていますね。“Baby何もかも”をきっかけに他の曲も作っていったんですか。

「いや、僕の記憶では“Baby何もかも”ができたのはそんなに最初の方じゃなかったです。むしろ最初の方にできていたのは、今回収録されている未発表曲の“ジグソーパズル”とか“ギブミーラブ”とかですね」

――この曲たちは、まだアルバムのことを考えずに作っていたときの曲なんですか。

「考えてないですね。考え始めたのって、やっぱり“Baby何もかも”ぐらいからかなと思います。“ジグソーパズル”や“ギブミーラブ”は、ただ遊んでるだけだったときにできた曲です(笑)」

――“ジグソーパズル”はすごくカッコいい曲でメッセージ性もあって、〈なんでこれが発表されなかったんだろう?〉って思いました。

「本当ですよね(笑)。ただ、この曲ができたきっかけってあんまり覚えてないんですよね。いつも録音が終わったらボスがCD-Rに曲を焼いてくれるんですけど、“ジグソーパズル”はその日に2人で完成させて持って帰った記憶があります。そのCD-Rには“ジグソーパズル”しか入っていなかったので、たぶんその日はこの曲だけ作ってたんじゃないかなと思います。ミックスもしてなかったし、最初に作ってなんとなく〈まあいいか〉って置いといたんです。何かとても不思議な曲ですね」

『KING Deluxe Edition』収録曲“ジグソーパズル”

――『KING』の収録曲とはまた違うテイストの曲ですが、“ジグソーパズル”を中心に曲づくりが進んでいたら、まったく違うアルバムになっていた可能性もありましたか。

「いや、それはアレンジの問題だと思うんですよね。きっとホーンセクションが入ったり、いろんなものを付け加えたらまた違った感じになると思います。今回、ミックスはやってもらいましたけど、楽器の音はそのままなんですよ。だからまったく2人きりの演奏です。ドラム、ハープ、歌とコーラスはボスで、ギターとベースは僕ですね。

その頃はまだ、とにかく録音することが大事だったというか(笑)。ちゃんと音を研究しながら録ってますから、マイクも1本のマイクをボーカルに使ったり、他のをドラムに使ったり。まずギター、ドラムを録って、そこから歌を録るんですけど、そのときにメロディーのちょっとしたことを〈ここはこうしようか〉って話したり、歌詞を書いたりして。〈じゃあ、とりあえずそこまで歌ってみようか〉って間奏前まで歌ったり――そういう作業をしました。

そんなことをやっているうちに、〈できたな!〉って終わったつもりでビールを飲んでたら、〈あれ? 間奏のあと歌がないな〉って気が付いたりして(笑)。そんなこともありました」

――“ジグソーパズル”は清志郎さんのカウントから始まって、最後に演奏が終わった後、清志郎さんの声が入ってますよね。

「あれは貴重ですよね(笑)。そこまでちゃんと聴いて欲しいです。僕の記憶では、ドラムはギターと一緒かドラムだけで録ったかどっちかだと思うんですよ。たぶん、ボスが気になったところを何回か叩いていて、〈くぅ~〉って言ってますね(笑)。〈いやあ、もう少しこうしたかったなあ、くぅ~〉みたいな感じだと思います」

『KING Deluxe Edition』限定盤の収録内容

――“ギブミーラブ”も同時期に作った曲でしょうか。

「そうです。“ギブミーラブ”は、僕の記憶では最後まで生き残ってた曲なんですよね。つまり、『KING』は12曲だったんです。マスタリングの直前になって、ボスが〈やっぱりちょっと、12曲って多い気がするんだよね〉って言うんですよ。〈じゃあ、どれかカットしますか〉っていうことで、“ギブミーラブ”をカットしたんです。曲順にも組み込まれてましたし、ミックスも終わっていました。“ジグソーパズル”は録った段階で終わってるんですけど、(今回の未発表曲のうち)それ以外の3曲はボスがミックスしてました」

『KING Deluxe Edition』限定盤に収録されているアナログ盤。『KING』のアナログ化は初

――『KING』はまさに〈ロッ研サウンド〉なクラシックロック的な音が特徴的ですが、“ギブミーラブ”もラブ&ピースな時代の感じが出てますよね。

「そうですよね。もちろんデジタルで録ってるんですけど、アナログっぽいですよね。マイクも高級なものなので、アナログの温かさが録れるし。

あとロッ研って、外付けの機材はコンプぐらいしかないんですよ。だから、『KING』には本当にストレートにマイクで録った音がそのまま入ってると思ってもらっていいと思います。そのコンプも良いかけ具合で。ミックスはボスが1人でやってて、どのぐらいかけたら太さがそのまま残るかとか、随分研究したと思いますよ」