今回はバンド同士の真のコラボレーションなんだ
――話を戻しますが、今作のアイデア自体はいつ頃から構想していたんですか?
「90年代後半から、僕とカート・バルー(ギター)は演奏の面で何かもっと違うことができないかと話し合ってきたんだ。それ以来、僕らはレコードの中で様々なことに手を出して、ダイナミクスを追求してきた。とはいえ、コンヴァージではビッグバンドスタイルで作品を作ろうと考えたことはなかったんだ。
でも2009年頃に面白いミュージシャンたちと出会い始めてね。カートはエンジニアとしてすごくたくさんのミュージシャンと仕事をしていて、彼らからインスパイアされていた。カートはその方向性に行きたがっていたけど、そういうサウンドを僕らの音楽性に持ち込もうとはしなかったんだ。
その後、たまたまチェルシー・ウルフとベン・チザムに出会い、さらにスティーヴ・ブロドスキーとのクリエイティブな繋がりが再び出来た。僕らは一緒に仕事をするべきラインナップを発見したと感じ、オランダで開催された〈ロードバーン・フェスティバル2016〉で演奏してみたんだ。一緒にライブで演奏して、良いケミストリーをそこで感じられたから、全員がこのまま続けたいと思ったのさ」
――ステージ上で感じたケミストリーはこれまでと違うものだったと?
「コンヴァージのライブはすごく激しいからね。そのステージでは新しい方法を学んだという感じかな。とはいえ、コンヴァージのスタイルを捨て去るんじゃなく、異なる方法で高めていく感じだね。なぜなら、ステージ上にはたくさんのメンバーがいて、動き回ることもできないから」
――確かに(笑)。その7人編成でやったライブが今回のコラボレーションを後押ししたと。
「そうなんだ。『Axe To Fall』(2009年)の頃にゲストをたくさん迎えてレコーディングしたけど、作曲の面ではゲストは関わっていない。でも今回はバンド同士の真のコラボレーションなんだ。すべてのミュージシャンがピュアなパフォーマンスからソングライティングまで、何らかのものを提案した。誰もがアイデアを出し、そのアイデアをシェアし、それらに磨きをかけていったんだ。本当にユニークな作業だったよ。それが新しい広がりをもたらしてくれたんだ」
チェルシー・ウルフはボーカリストとしてもギタリストとしても素晴らしい
――とりわけチェルシー・ウルフとのコラボには少し驚きました。あなたは彼女のセカンドアルバム『Apokalypsis』(2011年)を、サンフランシスコにあるレコード店のアクエリアス・レコードで購入したそうですね?
「もうなくなってしまったけど、アクエリアス・レコードは本当に素晴らしいお店でよく通っていて、そこで『Apokalypsis』は見つけたんだ。あと、ネイト(・ニュートン、ベース)が頼まれて作った年間ベストのリストに挙げていたことも覚えていた。
それにチェルシー・ウルフとベン・チザムが気付いたんだ。しかもベンは熱心なコンヴァージのリスナーだったからね。彼らはライブに来てくれて、お互いに話をするようになったんだ。2009年のシアトルでのライブだったと思うよ。それ以降、連絡を取り合い、ベンとは様々なレコードで一緒に仕事をした。ウェア・ユア・ウーンズ※のレコードとかでね。ベンはカートともいろいろな仕事をしていたし、チェルシーの素晴らしいアルバムも録音していた。それ以来、僕らは親族関係みたいな感じになったんだ。だから、一緒に仕事をすることはとてもナチュラルな流れだったんだ」
――あなたが思うチェルシー・ウルフの魅力とは?
「彼女はボーカリストとしても、ギタリストとしても素晴らしくてね。彼女の歌い方は僕とは全然違うし、スティーヴの歌い方ともまったく異なる。だから、僕らはみんなボーカリゼーションやメロディーに対して、異なる方法でアプローチする。それがクールで、コラボレーションにおいても特別なものが生まれたと思うよ」
――他に女性シンガーソングライターで好きな人はいますか?
「実は8月に解散してしまったんだけど、ジョニー・ジュエルがやっていたクロマティックスというバンドだね。彼らは基本的にエレクトロニックなバンドで、女性のボーカリスト(ルース・ラデレット)がいた。今でも僕のお気に入りのアーティストで作品は全部聴いている。どれも強烈かつディープで素晴らしいね」
パンデミックで孤独になったことは有益だった
――では、今作の制作に着手したのは?
「2016年頃に何回かライブをやった直後に、一緒に音楽を作ろうと決めたんだ。そのときからお互いのアイデアを聞き合い、曲のデモや曲の骨格をシェアし始めた。それから、フルアルバムを作り上げるべく一緒に作業を始めたんだ。
カートは既にエンジニアやプロデューサーとしてかなりの仕事をこなしていたから、僕らがどんどんデモを送っても、すべての曲を磨き上げる作業は比較的スムーズに進んだよ」
――パンデミック期間の制作により、レコーディングの一部はリモートで行われたそうですね?
「そうだね。多少の苦労はあったけど、ある面で孤独になったことは僕らにとって有益だった。みんなのアイデアに対して、どうアプローチしてメンバーに提示するかという点で、統一感のあるものを提案できたからね。もし同じ部屋で一緒に作業をしていたら、こういう作品にならなかったかもしれない。
あと、コロナ禍でライブができなくなってしまったから、そんなときにクリエイティブな目標を持ち続けられたことも良かったよ」
――今作ではジェイコブにはチェルシーのために歌詞を書いてもらい、チェルシーにはスティーヴのために歌詞を書いてもらったそうですね?
「そう、僕らはみんなお互いに歌詞を書き合い、そのアイデアを磨き上げていった。僕が歌詞を書いて、それをスティーヴが歌って……その逆もあるね。僕らは全員、そのやり方で作業するのは初めてだったから、本当に面白いプロセスだったよ」
――その体験であなたが得たものは?
「全員がリリックを書いて、それを最終的な形に仕上げるのは僕たちにしかできないことだった。最終的な決定権は自分にはないし、自分が最終的な決定をくだしたいとも思わない。他のメンバー全員と繋がり合って、お互いが提案したアイデアに対して、それをどういう風に高めることができるかを考えることは楽しかったな」