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ツアーの中止から心機一転、心境の変化が窺える『11:11』

その後、『Marigold』をひっさげたツアーが新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、早々に中止に追いこまれるというアクシデントはあったものの、すでに新曲を作り始めていたバンドは、ツアーができないならと気持ちを切り替え、早速、新作の制作を開始。そして、完成させたのがラフ・トレードからの2作目となる5作目『11:11』なのだが、これまでメンバーのセルフプロデュースでやってきた彼らがプロデューサーとして、クリス・ウォラ(ex-デス・キャブ・フォー・キューティー)を迎えたことや、『Skylight』と『Marigold』を作ったバンドの合宿所〈Amperland〉――アップステート・ニューヨークの町、キンダーフックにあるファームハウスを離れ、キンダーフックから南に下ったウッドストックのレヴォン・ヘルム・スタジオ、メックス・テックス・スタジオ、そしてマールボロにあるザ・ビルディングという新たなロケーションでレコーディングを行ったことからは、心機一転をはじめ、何らかの心境の変化が窺えないだろうか。

2020年のライブアルバム/映画『Amperland, NY』。〈Amperland〉でのライブ録音と映像からなる作品

ともあれ、いわゆる密を避けるためスタジオでは、エヴァン、ザック、マルチプレイヤーのサム・スキナーの3人がクリスと作業を行い、他のメンバーとエヴァンの父、ダグ・ホール(キーボード)とハーフ・ウェイフ名義でソロ活動をしているナンディ・ローズら、ゲスト(と言うか、準メンバーか)はリモートで参加したそうだ。

 

沁みる美メロとエモさ、より濃くなったカントリー色

そんな変則的なレコーディングが制作に、どんな影響を与えたのか興味は尽きないが、『11:11』は冒頭に書いた沁みメロ、美メロと、それを歌い上げるエヴァンの、それこそエモいという表現がふさわしいナイーブな魅力に満ちた歌声を生かしながらも、パイングローヴの作品中、最もカントリー色が濃い作品になっている。

もっともオルタナカントリーとエモの間に位置すると謳われてきた彼らのことだから、そのものスバリのカントリーナンバーがあるわけではないのだが、轟音フォークなんて言ってみたい“Orange”(気候変動の危機を訴えかけているそうだ)、カントリーにソウルミュージックのリズムギターを織り交ぜたパイングローヴ流コズミックカントリー“Flora”、ニール・ヤングを連想させるシンガーソングライター的な作風の“So What”を聴くと、やはりアメリカのバンドなのだなと思わずため息が出る

『11:11』収録曲“Orange”

その一方で、7分に及ぶアンビエントな魅力もあるスロウナンバー“Habitat”、曲が進むにつれ、演奏の熱度が上がるビートロック調の“Alaska”、キラキラと鳴るギターと泣きメロが80’sネアオコを連想させるフォークロックナンバー“Cyclone”では持ち前のエモさが全開。大きな聴きどころとなっている。

『11:11』収録曲“Alaska”“Habitat”

 

ナイーブなだけじゃない、時代のうねりを共に乗り越えようとするスピリット

ところで、『11:11』というアルバムタイトルには複数の意味が込められているそうだ。数字の1が並んでいる様子が、木が並んでいるように見えるからという理由を聞いたら、パイングローヴというバンド名の由来が、エヴァンが実際に見た松の木の列だと知っている人は、あぁ、これはつまりセルフタイトルなんだなと思うんじゃないか。その他にも1という数字が並んでいる様子が、エヴァンにはアップステート・ニューヨークのトウモロコシ畑、肩を寄せ合う人達、宇宙がウインクした瞬間(アナログ時計の11時11分を思い浮かべてほしい)に見えるそうだが、重要なのは、それが何に見えるかではなく、それが象徴するだ。

「このアルバムには様々な感情が含まれているけれど、アルバムを『11:11』と呼ぶことはみんなを励ますステートメントであるべきだと思っているんだ。今は怒りを感じることが多々あるし、多くの悲しみを克服しなければいけない時期だと思う。でも、僕が最も高らかに表現したい音は、結束、集団性、そしてコミュニティーという音なんだ。僕は、みんながこれらすべてを感じることのできる空間を届けたい」。

エヴァンの、この発言からはパンデミックも含め、ドラスティックに変わり始めた時代の大きなうねりを、共に乗り越えていこうというバンドの意思が感じられる。その力強さは、追い風ばかりではなく、向かい風も吹くことがあったこの数年の活動の中で得たものなのかもしれない。

パイングローヴ。エモいと言われながら、単にナイーブなだけじゃないところが頼もしい。

 


RELEASE INFORMATION

PINEGROVE 『11:11』 Rough Trade/BEAT(2020)

リリース日:2022年1月28日
配信リンク:https://pinegrove.ffm.to/1111

■国内仕様盤CD
品番:RT0270CDJP
価格:2,420円(税込)
解説・歌詞対訳付

■輸入盤CD
品番:RT0270CD
価格:2,490円(税込)

■限定盤LP(観音見開きジャケ/レッドヴァイナル)
品番:RT0270LPX
価格:4,890円(税込) 

■輸入盤LP
品番:RT0270LP
価格:3,190円(税込)

TRACKLISTING
1. Habitat
2. Alaska
3. Iodine
4. Orange
5. Flora
6. Respirate
7. Let
8. So What
9. Swimming
10. Cyclone
11. 11th Hour