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サウンドの真の深みを求めて

――あなたのエンジニアとしてのスキルは、ドラム演奏に影響を与えていると思いますか?

「うん、間違いなく影響はあるね。

2つのスピーカーで良いサウンドが鳴るのはどういうことなのか、じつは僕はエンジニアを始める前から知っていたんだ。ある時、レコーディング中に自分の演奏をプレイバックで何度も聴いて、タムタムが良い音で聴こえていないことに気付いた。キックの音と被って、ひどい音だったんだよ。それで、より良い演奏方法を編み出そうとした。当時はタムタム用のマイクがなかったから、タムを他のキットよりも大きな音で叩くようにしたりしてね。

それが始まりだったんだけど、エンジニアを始めてからはドラムの音が全て一緒になってうまく聴こえる方法を作り出せたんだ」

――本作『Protocol V』は、音像の左右の広がりや前後の奥行き、ナチュラルな残響、力強い音圧など全ての面で素晴らしいと思います。ミックスやマスタリングのテクニックやコツがあるのでしょうか?

「秘密はあると思うね。つまり、全てのエンジニアは少なからず技を隠し持っているから。

そして、僕はアルバムのマスタリングはやっていないんだ。それは、僕がミックスをした場合はマスタリングはやらないっていうルールを設けているから。自分がミックスしたものは客観的に聴けないから、マスタリングしたくないんだよ。逆に、マスタリングエンジニアは僕が気付かなかった点をピックアップしてくれる。だから、マスタリングされた音を聴くのは興味深いことだよ。

そして、それこそがレコーディングしたものをどうするのか?ということについて難しいことの一つなんだ。表面上の深みを超えて本当の深みを表現するのは、最も難しいこと。非常に技術的な面を学ばないと、そういうサウンドを創造する方法にたどり着けないんだ。僕が常に考えているのは、平坦なサウンドを超えて深みのあるサウンドに到達することなんだよ」

 

これはバンドを続けていくうえでの戦いなんだ

――あなたの音楽はハードフュージョンやジャズロックと呼ばれるスタイルですが、このジャンルを追求する際のやりがいとは? また、このジャンルのこれからの可能性はどんなところにあると思いますか?

「カギになるのは、僕がシンガーじゃないということだね。ソロプロジェクトにシンガーをゲストで迎えたらよりバンドプロジェクトらしくなると思うけど、それは無駄なんじゃないかと思っている。それが、僕がこの音楽ジャンルにこだわっている理由なんだ。

このジャンルのための場所はあると思うけど、一方で多くの人がこういう音楽を作っているわけじゃないことも感じている。現代はメロディックじゃない音楽が多いしね。今、僕の音楽を武道館で演奏できるとは思わないけど、でもいつかやってみたいよね。ジェフ・ベックやスタンリー・クラークと演奏した時のようにね。でも、こういう音楽のための場所はあると思うし、楽しんでくれる人もたくさんいると思う」

2015年のライブ動画

――あなたは長く素晴らしいキャリアをアーティストとしてもドラマーとしてもお持ちなのでおかしな質問かもしれませんが、目指す理想像をお聞かせください。すでに夢はかなえられてしまったのか? それとも、さらに望む姿があるのでしょうか?

「最後にこの質問に答えられるのは嬉しいね。

僕はもちろん、このバンドでもっと音楽的な高みに到達したいと思っている。また、ミュージシャンシップにはきちんと相応の報酬が支払われるべきだ。しかし、ジャズを演奏するようなミュージシャンは、収入の面で厳しいのが現実。僕はいつも、一緒に演奏してくれるミュージシャンたちの心からの演奏に、これだけしかギャランティを支払うことができないのか!と悲しく思っているんだ。でも、バンドがもっと広く認知されてより広い会場で演奏できればより多くのお金が入ってくるし、レコードが商業的に成功すればそれも助けになってくれる。どのセクションにもきちんと報酬が支払われてほしいと思っているんだ。

これはバンドを続けていくうえでの戦いなんだよ。そうあってこそ、ファンの前でいい状態で演奏することができるのだからね」

 


RELEASE INFORMATION

SIMON PHILLIPS 『Protocol V』 Phantom/ユニバーサル(2021)

リリース日:2022年3月2日
品番:UCCU-1659
フォーマット:SHM-CD
価格:2,860円(税込)

配信リンク:https://jazz.lnk.to/Simon_Phillips_ProtocolVPR

TRACKLIST
1. Jagannath
2. Isosceles
3. Nyanga
4. Undeviginti
5. When The Cat’s Away
6. Dark Star
7. The Long Road Home

パーソネル:サイモン・フィリップス (ドラムス)/アーネスト・ティブス(ベース)/オトマロ・ルイーズ(キーボード)/ジェイコブ・セスニー(サックス)/アレックス・シル(ギター)