2025年5月21日、たまのメジャーデビュー35周年を記念して日本クラウン・PANAM時代の作品がサブスク解禁された。代表曲”さよなら人類”や同曲を収録した1stアルバム『さんだる』などがストリーミングで聴けるようになっている。さらに8月27日(水)には、LP『さんだる』と7インチシングル『さよなら人類/らんちう』のカラーヴァイナルもリリースされる。これを記念してMikikiは、著書「イカ天とバンドブーム論 人間椅子から『けいおん!』『ぼっち・ざ・ろっく!』まで」が話題のライター土佐有明に寄稿依頼。日本音楽史上、類を見ない唯一無二のバンドについて綴ってもらった。 *Mikiki編集部


 

たまはビートルズの再来だったのか?

これまでこんなバンドはいなかった。おそらくこれからもいないだろう。1984年に結成され、2003年に解散した〈たま〉のことである。1989年~1990年に放映されたバンドコンテスト番組、イカ天こと「平成名物TV 三宅裕司のいかすバンド天国」でグランドイカ天キングに輝き、「NHK紅白歌合戦」にも出演したたま。そんな彼らが1990年から1992年にかけて発表したアルバムなど、全11作がサブスクリプションサービスで聴ける運びとなった。これを機に彼らの画期性と革新性と独創性を簡潔にひもといてみたい。

イカ天に出場した際にまず目を惹いたのは、そのビジュアルだった。おかっぱ頭に下駄を履き、だぶだぶのズボンを履いた知久寿焼(ボーカル/ギター)。丸坊主にランニングシャツで山下清のようだと評された石川浩司(ボーカル/ドラムス)。母性本能をくすぐるベレー帽の美青年、柳原幼一郎(ボーカル/キーボード/アコーディオン)、のちに本名の陽一郎に改名)。寡黙でシブくて無表情の二枚目、滝本晃司(ボーカル/ベース)。だが、イカ天で演奏VTRが流れると審査員の表情が一変する。ただのイロモノやキワモノなんかじゃない。審査員でオペラ歌手の中島啓江は、「私ね、好き。涙出てきちゃった。それと同時に笑いも出てきちゃった。ほんとお芝居観ているみたいだった」と感極まってコメントした。

ゴンゾー(ならず者)ジャーナリストを自称した気骨溢れるルポライターの竹中労は、晩年に「「たま」の本」という名著を上梓。4人ともが天賦の才と突出した個性を持つたまを〈ビートルズの再来〉と見立てた。確かに、頷ける論ではある。だが、たまは、ポール・マッカートニーとジョン・レノンがメインソングライターだったビートルズとも根本的な成り立ちが違う。4人全員が曲を書き、自分が書いた曲ではボーカルを取る。元々、彼らはシンガーソングライター4人の集合体として結成されたのだった。最後に加わった滝本も元々は弾き語りを中心に活動していたが、大好きなたまのバランスを崩したくないからと、ベースを手にしメンバーとなったのだ。

 

4人の個性が集まったスーパーバンドの伝説、そして現在

たまの曲で最もよく知られているのは、ハンバート ハンバートもEGO-WRAPPIN’もカバーした“さよなら人類”だろう。〈今日人類がはじめて木星についたよ/ピテカントロプスになる日も近づいたんだよ〉という意味深長な歌詞を覚えている人もいるに違いない。だが、この曲が彼らのすべてではないことは言うまでもない。石川はたまの音楽性について〈フォークにしては激しすぎる、ロックにいけばアコースティック楽器がほとんどなので、やはり違うと言われる。ポップであっても決して歌謡曲ではない。即興の要素もあるけど決してジャズとももちろん違う〉(石川浩司「「たま」という船に乗っていた」)と述べている。個人的には〈大人も聴ける童謡〉〈トラウマ歌謡〉〈アバンギャルドポップ〉などと呼びたいが、そう言ったそばからこぼれおちる要素が多すぎるのだ。

各アルバムの概要にも触れよう。たまのポップサイドが最もストレートに表出しているのは、1990年の『さんだる』。先述の“さよなら人類”の他、イカ天で披露された“オゾンのダンス”、“ロシヤのパン”など、キャッチーなメロディが耳に残る曲が揃っている。4人の個性が最も均等に露呈しているという意味では1991年の『きゃべつ』が嚆矢と言えるだろう。実際、アルバムでは1曲目が知久、2曲目が柳原、3曲目が石川、4曲目が滝本の曲(二巡目も同じ順序で曲が続く!)で、それぞれ作曲者がメインボーカルを担当。ここまで書いて気付いたが、彼らはいわゆる〈スーパーバンド〉だったんじゃないか。面妖で朴訥とした佇まいの彼らに、そんな大仰な形容が似つかわしくないのは、百も承知だが。

1992年の『犬の約束』は彼らの尖った部分とポップな側面が絶妙なバランスで同居しており、楽曲も粒ぞろい。過去作と較べて音質面も充実しており、とりわけ聴きやすい。それらと較べると、後期のアルバムは各メンバーの作る曲にかなり幅があり、4人が異なる方向性を指向していることが分かる。それぞれにやりたいことが違ってきたのだろう。微妙な温度差が柳原の脱退(1995年)や解散をほのめかしている。

イカ天で一躍国民的な人気者になってからも、たまはマイペースで活動を続行し、着実に進化を遂げていった。一時的な人気に惑わされることなく、スタジオを作り、2003年の『しょぼたま2』ではバッハのチェンバロ協奏曲をカバーするなんて離れ業もやってのけている。むろん、解散後も皆、歩みを止めてはいない。知久と石川はパスカルズというバンドで活動し、海外でも人気を集めているし、柳原と滝本もソロとしてのキャリアを伸ばしている。たまの〈その後〉も堅調にして順調なのだ。サブスクリプションサービスの解禁を機に、〈現在の〉4人の足取りにも興味を持ってもらえれば幸甚である。

 


RELEASE INFORMATION
<配信情報>
各配信サイト:https://bio.to/tama

■たま『さんだる』
オリジナルCD発売日:1990年7月10日

■たま『ひるね』
オリジナルCD発売日:1991年1月21日

■たま『きゃべつ』
オリジナルCD発売日:1991年10月21日

■友部正人&たま『けらいのひとりもいない王様』
オリジナルCD発売日:1992年3月5日

■たま『さよなら人類 (シングル・ヴァージョン)/らんちう (シングル・ヴァージョン)』
オリジナルCD発売日:1990年5月5日

■たま『オゾンのダンス/ワルツおぼえて』
オリジナルCD発売日:1990年9月21日

■たま『夕暮れ時のさびしさに/家族/まちあわせ』
オリジナルCD発売日:1990年12月10日

■たま『海にうつる月/ばいばいばく』
オリジナルCD発売日:1991年4月5日

■たま『きみしかいない/魚』
オリジナルCD発売日:1991年11月21日

■たま『そんなぼくがすき/ぼくはヘリコプター』
オリジナルCD発売日:1992年1月21日

■たま『星を食べる/方向音痴』
オリジナルCD発売日:1992年12月20日

 

たま 『さんだる(黄色盤)』 ブリッジ(2025)

リリース日:2025年8月27日(水)
品番:BRIDGE412/3
フォーマット:2枚組アナログ12インチレコード(黄色盤)
価格:6,600円(税込)

TRACKLIST
(オリジナル11曲+ボーナストラック2曲)
<A面>33回転
1. 方向音痴
2. おるがん
3. オゾンのダンス
4. 日本でよかった

<B面>33回転
5. 学校にまにあわない
6. どんぶらこ
7. ロシヤのパン

<C面>33回転
8. さよなら人類(オリジナル・ヴァージョン)
9. ワルツおぼえて
10. らんちう
11. れいこおばさんの空中遊泳

<D面>45回転
12. さよなら人類(シングル・ヴァージョン)
13. らんちう(シングル・ヴァージョン)

 

たま 『さよなら人類/らんちう(黄色盤)』 ブリッジ(2025)

リリース日:2025年8月27日(水)
品番:BRIDGE414
フォーマット:アナログ7インチ(黄色盤)
価格:2,420円(税込)

TRACKLIST
[A面]さよなら人類
[B面]らんちう

 


PROFILE: たま
1990年、シングル“さよなら人類”でメジャーデビュー。同年、第32回レコード大賞 最優秀ロック・新人賞受賞。また同年「NHK紅白歌合戦」にも出場し、社会現象にもなった。2003年に解散。解散後、メンバーはそれぞれソロや別のグループで活動中。
・知久寿焼=ボーカル、ギター、マンドリン、ウクレレ、ハーモニカ
・柳原幼一郎(現:陽一郎)=ボーカル、キーボード(オルガン、ピアノ、アコーディオン、鍵盤ハーモニカ等)、ギター
・石川浩司=ボーカル、パーカッション、オルガン、笛
・滝本晃司=ボーカル、ベース、トイピアノ、鍵盤ハーモニカ