ユーモラスさとシニカルさの塩梅がイイ具合な歌詞に、ひねくれた人懐っこさが魅力のメロディーなど、絶妙なバランス感覚に支えられたポップミュージックでもって絶妙なポイントを突いてくる男。デビュー24年目のシンガーソングライター、徳永憲の印象を語るとするとそんな感じになろうか。

そんな彼の通算12枚目のアルバム『今バリアしてたもん』もまた、そこんところをそういうふうにして突いてくるわけね、と思わずニヤついてしまう楽曲のオンパレードとなっている。変則チューニングを多用することで予期せぬ展開を生み出そうとする作曲スタイル、醒めているのかそれとも熱いのか判別しがたいボーカルなどアピール方法があまりに独創的すぎるがゆえ、〈孤高の〉という形容詞がどうにも似合ってしまうタイプであったが、その傾向がより強くなっている印象をこの2年ぶりの新作は与えずにはおかない。

もっと言うと孤高ぶりの艶めきがこのうえなく高く感じられる楽曲揃いとなっており、おまけにこれまでにないぐらい多作だったりするから(アルバムに加えてレーベルサイトではボーナスEP付きのセット販売もあり。さらに未発表のものまでを含めると今回30曲ほど作ったという)、突き具合がやけに激しく感じられたりもするのだ。まず思い浮かべたのは、今回のレコーディング中、どのような姿勢でどういうふうに音楽制作に取り組んでいたのだろうか?ということ。その辺から話を訊いてみた。

徳永憲 『今バリアしてたもん』 Waikiki(2022)

 

頭の中にはいつもメロディーがグルグルと渦巻いている

――アルバムの制作期間はコロナ禍の真っ只中ということになるのですか?

「外に出られず、家にいたときに作りましたね。溜まっていた曲がけっこうあったので、何かはじめてみようかな、って感じでスタートし、片っ端から録音していきました。それに伴って新しい曲も出来はじめ、ある種のムードが固まっていったんです。あらかじめコンセプトがあって作りはじめたわけではなかったんですよ」

――ムードといえば、前作とは異なる内省的な感触が強く出ているのが特徴的で。そっち方面へ向かっていた理由は?

「前作にあまり弾き語り的な曲がなかったので、そういう曲が溜まっていたという理由がまずあって。加えてコロナ禍の沈滞したムードの影響も少なからずあったと思います。たくさんレコーディングしたんですけど、このコロナ禍のムードに合うものを選んでみて、結果的に一貫したトーンが生まれたんだと思う」

――従来から作品作りの際は、その時々の置かれた環境や精神状態が大きく反映したりするのですか?

「そうでもないですね。はじまりはたいてい作曲からで、そのメロディーに合う歌詞を探していくんですが、バッチリ合うものが出てくるのをひたすら待つ、って感じですかね。かならずしも生活のなかから降りてくるわけではないですね」

――すると頭のなかはいつも理想とするメロディーやサウンドが渦巻いているような状態だったりする?

「グルグルと渦巻いている感じですね。そこに書き留めておいたフレーズなどを当てはめたり、削ぎ落としたりしつつ曲にしていく」

――そのスタイルは曲作りを始めた頃からずっと変わらず?

「次第にそうなっていった感じですかね。僕にとって作曲の原点は犬の散歩での鼻歌からはじまってるんで。これまでいろんなやり方を試してみたんです。サンプラーとか使って遊びながら作ろうとしたり。でもアコギを抱えて、ポロンポロンとやりながらはじめるのが自分には合っているんだとわかった。サウンドの方向を決めて、こういう完成形をめざして、と作為的に進めていくよりも、何もない状態でアコギと向き合ってみるというスタイルが自分に合っている」

 

いつまでも揺れていたいという気持ちを映したコーラスワーク

――それにしても“ターゲットと呼ばれて”をはじめ、今回もコーラスワークの充実ぶりは目を瞠るものがありますね。コーラスへのこだわりをぜひ語っていただきたい。

「自分自身への評価として、リードボーカリストだとあまり自覚できていないところがある。ただ自分の曲を誰かに歌ってもらうとなると、どうしても違和感が出てくる。そのギャップを埋めてくれるのが、コーラスなのかなぁと思っているんですけど」

『今バリアしてたもん』収録曲“ターゲットと呼ばれて”
 

――自分の身の置き場所としていちばんしっくりくるのがそこだと?

「そうですね。自分の声を重ね上げて作り上げた世界を眺めていると、そうそうコレコレって、って気持ちになる。もちろんボーカル一本でうまくいく曲であれば、あえて足すことはしない。何か足りないな、何か欲しいな、と感じた場合、まず自然に出てくるのがコーラスを入れるという発想なんです」

――いつも、いつまでも漂っていたい、といった徳永さんの願望のメタファーだったりするんじゃないかという気もします。ちなみにコーラスを好きになったきっかけは?

「10㏄やクイーン、あとビーチ・ボーイズ。そういった面々の好きな曲から学んでいった感じですね。好きだった曲のコーラスがすごく特徴的で、そこに自然と耳が向かっていった、という表現のほうが正しいかもしれません」

――あとファルセットを多用した“肘鉄”が醸す浮遊感が本当に素晴らしい。フィーチャーされたメロトロンの響きも含め、曲全体をとおして妙に心をざわつかせる独特な揺れを感じられるのですが、アルバム全体を聴くと、どの収録曲にも同質の揺れが感じられるな、ってことに気づかされました。

「あ~、たしかにそうなりましたね。本当はもうちょっとグチャッとなるようなギターソロとかを用意していたんですけど、弾いても弾いてもどうにも合わなくて。ここに落ち着くまでにぐちゃぐちゃ触りながら試行錯誤しました。歌詞も不安定なところがあるし、曲のそういう性格がそういった感覚を呼んだんでしょうね」

『今バリアしてたもん』収録曲“肘鉄”

 

20年以上やっていても、新しいものがまだ自分から出てくるんだ

――歌詞の話になりますが、“今バリアしてたもん”がとにかくユニーク。この曲は徳永さんのなかには梃子でも動かないピュアネスが存在していることを伝えてくれるというか、揺れはするけれど簡単にブレたりはしない、という頑丈な意思を感じてなりませんでした。

「はいはい。その頑なさや強情さを幼稚と言われたとしてもかまわない、という開き直りというか。ある種、愚直な感じですよね。このフレーズって子どもがよく使うものですが、大人が使ってもおもしろいかなと。不意にポロッと出てきたんですよ」

――へぇ~。ところでお子さんがいらっしゃるそうですが、子どもからインスピレーションを受けることって多々あります?

「それも多くありますけど、僕は基本的に何も除外するものがないんです。とにかくいろんなものから発想を得ています」

――絶妙なフレーズがミニマルに展開する冒頭の“あたためたよ、ベンチ”もおもしろい。ズブズブと足が取られていくような感覚を得るというか、聴いていると否応なしに作品に引き込まれてしまう。しかしいずれの曲も、ロックの熱狂やポップスの高揚とは遠く離れたところで鳴っている印象があって。そこには騒いだり浮かれたりすることを禁じられたこの2年間の空気が如実に反映されている気もする。

「もともとライブをするもそんなに好きなタイプではないんですよ(笑)。性分として家でチマチマやっているのが好きなもので。正直言うと、家から出てはいけない、という宣言が発令されたとき、よし、これでいっぱい録音ができる!とも思ったぐらいで(笑)」

――今回、徳永さん的にエポックな楽曲というと?

「新曲の“いつかふれる”がそうかな。自分としてもわけがわからん曲やなと思っていたんです。雰囲気はしっとりしているけど、歌詞も含めて無茶苦茶な曲。でもこういう正体が知れないもの、新しいものがまだ自分から出てくるんだということがわかって嬉しかった」

――ラブソングとして捉えられもするけれど、深い自己省察の歌にも聴こえるし、うまく言えないけども、ゆったりしているのにギリギリな緊張感が全編に漂っている。まったくもって不思議な曲。

「自分と向き合いながら何が出てくるか試しながら作るのが好きなんですよね。こういうものを作りたいという意思を抱きつつそこに向かって突き進んでいく、というよりも、自分のなかから自然に湧き出たものをまとめていくのが楽しい。で、作詞/作曲の段階までは僕個人の表現なんですけど、作品に仕上げるにあたってプロデューサー的な部分が起き出してきて、さらに音楽のヘビーリスナーである自分も登場してきて、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら完成へと向かう。というように、何層にもなっているんですね」

――今回のレコーディングでは、演者としての部分や監督としての部分などそれぞれの役割の比重において何か変化などはありました?

「最終的にはどうなったんだろう……アルバムを仕上げるタイミングでは、聴き手としての自分の働きが大きかったように思う。ミュージシャンとしてはできるだけたくさんの音を入れたい、という欲求にかられるものですが、今回はけっこう絞りましたからね。アルバムのムードを壊さず残すということに重きを置いた結果、出来の良い曲を外したりもしましたし」

――すると、レーベルサイトで販売中の〈ExtraSet〉に付属しているボーナスEP『惑わされていたいEP』に放り込まれたのは、そういった判断で外された曲だったりするのですか?

「ボーナスEPをつけるというアイデアは途中で降って湧いてきたんですけど、たしかにそっちへ回すことができましたね。とにかく変速チューニングのアコギインストとかをいっぱい録ってたんですよ」

――本編とEPでは曲の棲み分けがうまくできている印象がありますね。EPのほうには、少し目鼻立ちがしっかりした楽曲が並んでいる気がします。そこから導き出せるのは、本編のほうは、どこかファジーで不確定要素を多く孕んだ曲というか、不思議な佇まいをした曲が揃っているという事実だったりする。

「曲が曲を引っ張ってくるというか、曲どうしが相互に影響を与え合っているような、そういう性質を持った曲を選んだつもりです。だから独立した個性のある曲は必然的にその輪から外れていきました」

『今バリアしてたもん』収録曲“思いつめちゃいけない”

 

50代になってなお情熱と衝動を失わぬために

――本作は徳永さんが50代を迎えてから初のアルバムになるわけですけど、寄る年波が作品作りに与える影響についてお聞かせいただきたい。

「いろいろありますよ。最近子どもがギターを始めたんですけどね、すごいんですよ、おんなじ曲を朝から晩まで弾き倒してるんです。そういう無邪気さというか、まっすぐな情熱は確実に失っているなとつくづく感じていて。何日もギターを触らないことなんてザラにありますから。もともとギターを抱きながらテレビ観ているような子どもだったのに」

――あぁ、なるほど。

「近ごろは衝動に突き動かされるようなことがめったにない。なので、自分の脳に刺激を与えねば、ということで無茶苦茶なチューニングでギター弾いたりだとか、まだ出会ったことのないおもしろいものを探し出そうとはしています」

――それって自分のなかの音楽作りに向かう意欲の火を消さないための処置だったりもするんでしょうか?

「うん、そうですね。歌詞は割りあい苦労せずに書けるんですよ。ずっと変わらず自然にどんどん湧き出てくる。ただメロディー作りに関しては、若い頃のほうが瞬発力があったし、そこを維持するのはなかなか大変ですよね。まぁ、作詞の面ではまだまだ踏み込んでいない領域があるという実感を持っているし、作曲とのバランスがいい具合に働けばいいなと思っているんですが。やっぱりね、長くやっていればどうしても、似たような曲が多くなってしまうものですよ」

――ハハハ!

「僕の大好きなニール・ヤングとかも、最近の作品はもはやどれがどの曲なのか判断がつかない(笑)。それが自覚できているだけに、いろんな刺激を与えながら何か新しいものを得ようとするわけですよ」

――まぁ歌詞の領域って人間的な成長が大きく関与しますし、歳を取るごとに新しい視点が生まれたりしますもんね。

「歌詞のテーマを決めるにあたっては何も除外するものはない、と言いましたが、リミッターを取っ払ってしまえば、いろんなものが入ってくるようになりますからね。そこに人生の蓄積みたいなものが重れば、自然と広がりが生まれますし。“今バリアしてたもん”とかはまさにそういうタイプの曲。20歳の頃には描けない世界ですよね」

 

子どもが真剣に言っていることを大人が本気で言うのが面白い

――そういえば、来年2023年はデビュー25年イヤーになるんですよね?

「98年にデビュー作が出ているのでそうですね」

――デビュー当時といまの自分を比べてみてまず考えるのはどんなことでしょう?

「あの頃の曲を歌うのは、いまもぜんぜんイケるんですよ。そういう意味では一貫性のある作品を作り続けてこれたんじゃないかと思うんです。歌い方や制作のプロダクション方法が今とは違いますが、芯の部分はほぼ不変。同じスタンスで音楽をやってこれたという自負がありますね。歌詞も自信を持って提示できるものを書いてきたという手ごたえがありますし」

――今回の歌詞はグサグサ刺さりまくりました。なかでも“今バリアしてたもん”が深く刺さりました。徳永さんと同世代の僕にとって、自己肯定感を高めてくれるすごくありがたい曲で。

「うん、これでいいんだ、っていうね。使っているのは幼稚な言葉だけど、こういう言葉ってみんなが考えている上を行くんですよね。でもって上から覆いかぶさってくる。なんていうか、論破するとかしないとか、そういう問題ではなく。冷笑するとか、マウントを取るとか、それ自体幼稚な行為だと思うんですけど、それらを凌駕するというか、そこのさらに上を行くんです」

――無垢なだけに、圧倒的な無敵感がある。

「そう、無敵感。子どもが真剣に言っていることを大人が本気で言う、それも面白いと思うんですよね」

――加えていえば、いくつになっても揺れ続けていたい、という願望がひしひしと伝わってくるし、そこがどうにも愛おしく感じられる。

「なるべく正直に物事を捉えたいし、言いたい、ということがそうなっているんですかね」

――最後にこれからやりたいことや目標を教えてください。

「自宅にこもって作る時間が長かったので、他のミュージシャンのパワーとかをもらいつつ、もっと外と交流したものを作りたいですね。まだどうなるか、ぜんぜんわかりませんが」

――具体的にどんな人と組みたい、とかありますか?

「誰々って具体的な人はいないんですけど、ロックバンドの手法を持っていないような人とコラボしてみたいんですよね。ジャズミュージシャンとか。例えばペンタングルのような、フォークミュージックなんだけど、異質なものが混じり合って違うものが出来上がっている形。ああいう掛け合わせの妙というか、ああいうふうに曲の世界を広げていくことを試してみたい」

――ダニー・トンプソンのような出自と感性を持ったベーシストといっしょに未知なる音を探ってみたい、とか?

「そうそう、そういうことがやれたら最高ですね」

 


RELEASE INFORMATION

徳永憲 『今バリアしてたもん』 Waikiki(2022)

リリース日:2022年3月23日

TRACKLIST
1. あたためたよ、ベンチ
2. 今バリアしてたもん
3. 恋のこむらがえり
4. 君がそばにいる
5. 肘鉄
6. 紐
7. ひとくちちょうだい
8. ターゲットと呼ばれて
9. いくじなし
10. 低迷
11. 森で
12. 思いつめちゃいけない
13. いつかふれる
14. 因果律