四半世紀を共にしてきた女声合唱団リトルキャロル、みなに届けたいさまざまな困難を超えてこその、〈祈り〉

 25年も活動を共にしている女声合唱団、リトルキャロルとアルバムを作りたい。シンガーの麻衣が抱いてきた思いは、コロナ禍で熟されるなか、一気に具現化し、麻衣 with リトルキャロル名義のアルバム『Beautiful Harmony』として完成を見た。

 「一昨年からずっとコロナで、週に一回続けてきたリトルキャロルの練習もオンラインに切り替わって。この時期に何を思い、何を考え、どんなことに取り組んだのか。それを反映させた、今だからこそ作れる作品があると考えるなか、もともと祈りという言葉が頭にあったので、これをテーマにリトルキャロルのひとつの集大成としてアルバムを作りたいと思いました」

麻衣, Little Carol 『Beautiful Harmony』 コロムビア(2022)

 〈祈り〉の起点になった曲がある。20世紀初頭に書かれた“聖フランシスの祈りの歌”だが、麻衣が書いた日本語詞が美しく、「私は平和の道標になりたい」と歌い始める。

 「“聖フランシスの祈りの歌”を初めて聴いたのはTVで観たダイアナ妃の葬儀で、なんていい曲なんだろうって。その後、楽譜を手に入れてから英語で歌ってきたのですが、英語の歌詞がなかなか難しく、その壁がなければ、もっと感情移入できるのにって。それで日本語詞を書いたのですが、この歌を歌うと、私自身が心穏やかになるし、この時期だからこそ歌うことに意義があると思いました」

 ここから選曲の構想が膨らみ、最終的に11曲に決められた。他にも聖歌はあるが、ジブリ作品に提供された久石譲作曲の名曲や村松崇継が作曲した“いのちの歌”や“わたしの光”などが収録されている。

 「“わたしの光”という曲は、初めて村松さんと一緒にやらせていただいた曲で、歌詞を私が書いています。もともと戦後70年の時にNHKで放映されたアニメ番組『おじゃる丸スペシャル~わすれた森のヒナタ』の主題歌で、作詞した当時、どうして戦争を始めたのか、なぜ始めなくてはいけなかったのか。本を読んだり、調べたりして、いろいろ考えて書いた歌詞です。その歌が奇しくもですが、今の戦禍と重なってしまって。もう一度この歌の意味を考えたし、みなさんにも聴いてもらいたいと」

 レコーディングを始めた時は、コロナの心配だけだった。30名のメンバーと共にPCR検査をして臨んだが、制作を進める段階で侵攻が始まった。なので、そこを狙った企画ではないが、透明感あふれる麻衣の歌声と清らかなリトルキャロルの合唱による祈りや命の歌に心救われる。

 また、あえて生楽器を使わず、優しいイメージを求めて選んだエレクトロ・サウンドが浮遊感のある麻衣の歌声と相まって、幻想的でありつつ、ふわりと歌に抱擁されているような余韻が続く。そこにも癒される。

 アルバム後半、聖歌が続いたあと、NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」のエンディング曲“Stand Alone”が最後を飾る。明治時代の不屈の精神が静かに伝わってくる曲だ。

 「“Stand Alone”を最後にしたのは明日に向かっていける希望が感じられるのがいいし、明治の歴史を彷彿させて、“凛として旅立つ”という歌詞に背筋がピシッとする思いがするからです。最後は、頑張ろうという感じで終わりたかったので、この曲にしました」

 “Stand Alone”を作曲したのは久石譲、麻衣のお父さんだ。親子であっても「何でもいいよというタイプじゃないので」と笑うが、完成した作品に対する反応はすこぶる良かったそうだ。

 そして、あらためてこう語る。

 「アルバム制作は、わたしの光になりました。レコーディングに全力投球する時間は、とても楽しく幸せでした。さらにオンラインの練習が続いたことで、みんなで声を合わせた時、最初はうまくハモれなかったのに、少し回数を重ねてからの飛躍がすごくて練習中に感動することもありました。これも声を合わせられない時期にそれぞれが自分の声と向き合い、上達したからだと思います」

 その作品に思うのは声こそが最高の楽器であり、奏でるハーモニーは、人と人の絆を象徴するカタチだということ。歌をかみしめる幸せに出会えるアルバムだ。

 


PROFILE: 麻衣(Mai)
東京生まれ。2歳からピアノを始める。4歳で、父、久石譲が音楽を手がけた、映画「風の谷のナウシカ」劇中歌“ナウシカ・レクイエム”を歌う。6歳からNHK東京自動合唱団に所属。2005年韓国映画「トンマッコルへようこそ」テーマ曲によりソロ活動を本格化。1996年に結成された女声合唱団リトルキャロルを主宰。

 


LIVE INFORMATION
島本須美/角野隼斗/麻衣/菊池亮太による歌とピアノのスペシャルコンサート「sings ジブリ」
2022年4月23日(土)東京 立川ステージガーデン
2022年5月5日(木)愛知県芸術劇場 コンサートホール
2022年5月14日(土)広島 上野学園ホール(広島県立文化芸術ホール)
2022年5月15日(日)京都・城陽 文化パルク城陽プラムホール
2022年5月29日(日)大阪・福島 ザ・シンフォニーホール
2022年6月11日(土)兵庫 丹波篠山市立田園交響ホール
2022年6月12日(日)兵庫 たつの市総合文化会館赤とんぼホール
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