タワーレコードで開催中の〈♡80’sキャンペーン〉は、幅広い世代が再評価している80年代の豊潤で独特なカルチャーを特集したものだ。この記事では、キャンペーンを記念する作品として編まれた、タワレコの選曲によるコンピレーションアルバム2作『Love 80’s - BEST J-POP CRUSHES』『Love 80’s - TOP J-POP HEARTTHROBS』の魅力をお伝えする。80年代、そしてあの時代に生まれたジャパニーズポップスのおもしろさとは? 音楽ライターの桑原シローが綴った。 *Mikiki編集部
国内外への絶大な影響力を誇る80年代J-Pop
汲めども尽きせぬ80年代への興味。何かおもしろいものを生み出すためのインスピレーションの源として時代のクリエイターたちから変わらず重宝され続けている80’sカルチャーだが、とりわけジャパニーズポップミュージックの影響力は絶大だ。ここら辺の音楽が持つ世界観はいまや世界中で共有可能なものとなり、知られざる名曲の掘り起こし作業を地球の裏側のリスナーまでもがいっしょになって行うような状況が生まれている。まったくもって痛快な話。たぶんこのコンピに収められている楽曲も、好奇心旺盛な彼らを大いに刺激するのだろうな、なんて想像してしまう。
このコンピとは、タワーレコード企画・選曲による80年代コンピシリーズから登場したJ-Pop編2種のこと。選曲を担当したのは、タワレコのツワモノバイヤーたちで、当時のメインストリームから傍流までワイドに目配せしたチョイスで、実に個性的な80’sソングブックに仕上げている。では、それぞれの聴きどころをピックアップしていくとしよう。
佐野元春の名曲、アニソン、早すぎたオマージュ……『BEST J-POP CRUSHES』
まずはソニー音源をメインとした『Love 80’s - BEST J-POP CRUSHES』から。
オープニングを飾るのは、〈国際青少年年〉のテーマソングとして発表された佐野元春の“Young Bloods”(85年)。80年代的な〈先鋭性〉を物語るならば、NY仕込みのヒップなビートを全面に配したエポックメイキングな『VISITORS』(84年)の収録曲を採り上げるのが妥当かと思われるが、佐野の関心が洗練度の高いUKサウンドの方向へと徐々に移行しつつあった時期のこの曲をセレクトするあたりのセンス。佐野の江戸っ子らしいスタイリッシュさがみごとに開花したこの名曲が持つポップなカラーが本コンピの特徴を形作っていると言ってもいい。対応力や柔軟性の面において80年代最強のジャパニーズバンドだったTHE HEARTLANDの実力を知るうえでも最良のサンプルとなり得る1曲だ。
おもしろいのは、後進のバンドやアーティストがあの頃のヒット曲を料理した曲も取り混ぜているところ。例えばPOLYSICSによるスティクスのカバー“ドモアリガトミスターロボット”(2002年)。これは80年代らしい空気を連想させるイケイケドンドンな感じをうまく掬い上げた好カバーだ。
KOJI-12000(今田耕司)の“時間よ止まれ”(98年)の収録もポイント高し。80年代がまださほど遠くになっていない時期に、体当たり的とも言うべき大胆なオマージュをかましてみせたこの心意気。早い、早すぎた。
新御三家の郷ひろみと西城秀樹によるワム!カバー合戦が繰り広げられているのも見逃せない。ジョージ・マイケルのキャリアを代表する名バラード“Careless Whisper”(84年)をそれぞれのアプローチで表現してみせたこの勝負、いったいどっちに軍配が上がったのかいまだに判断しかねている。
ワム!モノということでは、TRFのSAMが在籍した和製外国人グループ、リフラフの“東京涙倶楽部”(84年)も紹介しておかねば。表参道の雑踏風景にバッチリハマりそうな軟派さ満点のモータウンビートは、懐かしすぎて思わず涙しそうになる。
海外のシティポップブームに大きく関与している80’sアニメ系では、「シティーハンター2」のエンディングテーマだった岡村靖幸“Super Girl”(88年)や「うる星やつら」の“星空サイクリング”としておなじみのヴァージンVSの“コズミック・サイクラー”(82年)などがあり。
吉川晃司の“にくまれそうなNEWフェイス”(85年)やC-C-Bの“原色したいね”(87年)といったコピーライター全盛期を象徴するタイトルもイイ感じの存在感を放っている。