大切な思い出のスナップ写真のような、忘れられないベスト・ソング集
ダリル・ホール名義のソロでは最大のヒットとなった“ドリームタイム”で幕を開ける。コーラスやストリングスを含めたアレンジが凝っているのに、殊更それを目立たせることなくロックの力強さを印象付けるあたりが、ダリル・ホールの真骨頂だ。1986年の同名のアルバムからで、それを含めて彼のソロ・アルバムは5枚ある。それらから22曲、彼がゲストを招いてセッションを楽しむという映像番組で、2007年にインターネット配信で始まった『Live From Daryl’s House』から8曲、そして、もう1曲、日本だけのボーナス・トラックとして、タバコのCMで親しまれた“ホワッツ・イン・ユア・ワールド”の合計31曲、各アルバムから年代順ではなく、ランダムに並ぶ。これが、全体像だ。彼の中のどんなルールで曲順が決められたのか、『ビフォー・アフター』というタイトルと重ね、想像しながら聴くのも楽しい。
新しい発見に出会ったり、改めて味わう曲の数々はもちろんだが、プロデュースを託したこともあるトッド・ラングレンとの“友達でいさせて”、ルビーとロマンティクスの“燃ゆる初恋”やバタフィールド・ブルース・バンドの“イン・マイ・オウン・ドリーム”など、その選曲を含めて友人たちとのセッションにはやはり耳が奪われる。
他にも、ロバート・フリップ、デイヴ・スチュワート、ジョニ・ミッチェル、アラン・ゴーリー等々と一緒に、ソウル、ブルース、ロック、ジャズ、R&Bと言った音楽を身体中で浴びながら、友人たちと一緒に、誰よりもまずダリル・ホール本人が楽しんでいる。その大切な思い出のスナップ写真をいろいろみせてもらっているような気分だ。多彩にして自由、それでも、全体として崩れていないのは、それらの音楽への愛情で、熱意で、そして友情で鍛えられた彼の歌声が、一本の芯というか、強い体幹を作り上げたからだろう。そう言えば、このほとんどに参加し、ダリルにとって欠かせない存在だったが2010年に急逝したT.ボーン・ウォークが、いまはもういないのだという淋しさもふと脳裏をよぎった。