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天才少年は、今、気鋭のコンテンポラリー・ジャズ・アーティストへと変貌する。

 2013年に、10歳にしてウィントン・マルサリス(トランペット)に招聘されてNYで鮮烈なデビューを飾ったジョーイ・アレキサンダー。2015年のファースト・アルバム『My Favorite Things』のリリースを機に、拠点を故郷のインドネシア、バリ島からNYへ進出し、天才少年の名を轟かせ、各地のツアーを巡りながら5作のリーダー作をリリースしてきた。グラミー賞には3度ノミネートされ、まさに破竹の勢いの快進撃であった。しかし2020年3月、コロナ・パンデミックにより、全ては停止してしまう。

 「2015年にアメリカに来てから、本当に怒涛の日々を過ごしていたから、すべてがキャンセルとなり、創作のモチベーションをキープするのが難しかった。でも、作曲に没頭することによって、クリエイティヴな姿勢を保つことができた」と、ジョーイは2年前を振り返る。

 「僕の作曲家としての本格的なスタートは、4作目の『Eclipse』からだ。このアルバムのオリジナル曲は、今もレパートリーに入っている。そして新作『Origin』は、ついに全曲オリジナルで構成したアルバムを完成できた」

JOEY ALEXANDER 『Origin』 Mack Avenue/キングインターナショナル(2022)

 『Origin』は前作に続いて、デビュー以来のパートナーで「現代ジャズを代表するヴォイスの一人」と憧れていたラリー・グラナディア(ベース)、現代のグルーヴ・マスター、ケンドリック・スコット(ドラムス)と、ゲストにお気に入りギラッド・ヘクセルマン(ギター)と、クリス・ポッター(テナー・サックス/ソプラノ・サックス)を迎えて録音された。

 「2020年の後半から、新たなアイディアを試してレコーディングをして、2021年に3枚のシングルをリリースした。2021年の最初の5ヶ月は故郷のバリ島に帰省し、美しい大自然に囲まれてピアノには触らず、リラックスした時間を過ごす。自分のこれまでの8年間の素晴らしい体験、自分の内面、そしてパンデミック後の未来について深く掘り下げ、作曲のインスピレーションとした。そしてNYに戻った6月に、このアルバムの制作に取り掛かったのだ。素晴らしいアーティストたちと、最高の時間を過ごせたよ」

 ジョーイは3月31日から、ブルーノート・NYに4日間出演して、久しぶりに観客を前にプレイして感激したそうだ。

 「また多くのオーディエンスと、音楽を通して新たな希望と僕のスピリットをシェアできる日が、待ち遠しい」。天才少年は、今コンテンポラリー・ジャズ・アーティストとして成長を遂げ、新たな一歩を踏み出す。