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内に秘めた炎を感じさせる意欲作

 ガムラン音楽で知られるインドネシア、バリ島のデンパサール出身で、弱冠16歳のジャズ・ピアニストのジョーイ・アレキサンダーが、ライヴ盤を含めて通算5枚目のリーダー作にしてメジャー・デビュー作となる『ワルナ』を発表した。

JOEY ALEXANDER Warna Verve/ユニバーサル(2020)

 ジャズ・ファンの父親のCDを聴いてジャズに興味を持ったというジョーイは、6歳でキーボードをプレゼントされたのをきっかけに、信じられない早さでピアノのテクニックを習得した。「いつも音楽に囲まれていました。アレサ・フランクリンの『アメイジング・グレース』はものすごく刺激になったし、マイケル・ジャクソンやロック、クラシックなど、あらゆる音楽を聴きましたが、ジャズは音楽で会話をするというところに興味を惹かれたんです。プロとして演奏したり、ジャムセッションに参加したりするようになったのは、7歳の頃でした。今もそうですが、僕はいつも、音を出す前によく聴くことを第一に考えています」

 12歳の時に発表したデビュー・アルバム『マイ・フェイヴァリット・シングス』(2015年)で、彼はすでに“ジャイアント・ステップス”や“ラウンド・ミッドナイト”、“オーヴァー・ザ・レインボウ”など、難曲から叙情的なバラッドまで幅広いレパートリーをこなすばかりでなく、オリジナル曲も盛り込んでいた。前作『エクリプス』(2018年)ではそれが半数を超え、ラリー・グレナディアとケンドリック・スコットという腕利きと組んだトリオを中心とする新作は、スティングの“フラジャイル”とジョー・ヘンダーソンの“インナー・アージ”以外、全てをオリジナル曲で構成している(国内盤はボーナス・トラックとして“マイ・ファニー・ヴァレンタイン”収録)。

 「とくにここ2、3年は、ずっと曲を書き続けてきたので、オリジナルをもっとたくさん聴いてもらいたいと思ったんです。今回はパーカションを新たに取り入れたり、力強さだけじゃなく、優しさも表現するためにフルートを取り入れたりして、より幅広い表現をめざしました。そのために、曲のテンポの決定やゲスト・ミュージシャンの選択といった準備にも時間をかけたんです。ミュージシャンは常に進化することが大切で、新作ではフリー・インプロヴィゼイションの“アファーメーションI”や“~III”も盛り込んでいますし、音楽の方向性やサウンドの表現といった部分を進化させることができたと思っています」

 当面は、少人数での親密な音楽的会話が楽しめて、演奏技術の向上にも都合が良いということで、トリオでの活動を中心にしたいというジョーイだが、いつ、どんな形でさらなる進化を遂げるか楽しみだ。