〈サン=ジェルマン=デ=プレのミューズ〉ジュリエット・グレコの歌を未来へ繋ぐ

 〈サン=ジェルマン=デ=プレのミューズ〉ことジュリエット・グレコは、日本でもフランスのシャンソンを代表する歌手の一人としていまも人気が高い。彼女は2年前にこの世を去ったが、『グレコ、あなたを忘れない』でクレール・エルジエールはその遺産を未来に橋渡ししようとしている。

CLAIRE ELZIÈRE『グレコ、あなたを忘れない』 RESPECT(2022)

 パリ生まれのクレールにとって祖父母の暮らしていたサン=ジェルマン=デ=プレは少女時代から大好きな街だった。かつて百科全書派の知識人が集ったその地区は、第二次世界大戦後、実存主義揺籃の地となり、カフェやクラブには文学、映画、音楽、演劇関係者が訪れ、写真家ロベール・ドアノーが撮った実存主義作家のジャン・ポール・サルトルやグレコの写真は世界の写真雑誌を飾った。

 「グレコは南仏の生まれですが、自分の歴史をサンジェルマン=デ=プレで築きあげ、生涯パリをうたい続けました。人生は人との出会いの芸術です。百花繚乱の才能の出会いの交差点パリで彼女は、ボリス・ヴィアン、ジョルジュ・ブラッサンス、レオ・フェレ、ジャック・ブレル、セルジュ・ゲンスブール……らと出会って、作品を提供されたんです。アルバムを選曲してから気がついたんですが、作者はみんな男の人ですね(笑)。自身が歌手でもあった人たちがわざわざ彼女のために作品を提供していたんです」

 たとえば収録曲の“ラ・ジャヴァネーズ”はいまはジェーン・バーキンでおなじみだが、もとはゲンスプールがグレコに作ったものだった。

 グレコがサルトルにすすめられてレコーディングしたデビュー曲“そのつもりでも”もこのアルバムに取り上げられている。

 「最初になじんだグレコの曲なんです。歌のレッスンを受けた先生にこの曲をうたいなさいとすすめられました。若い娘さんに、楽しい青春はいつまでも続かないよと忠告するちょっと愉快な曲ですね。魚と鳥が恋をするというありえないことを陽気にコミカルにうたう“小さな魚と小さな鳥”も好きな歌です。シリアスなものから楽しい歌まで、このアルバムではグレコのパレットの色彩の豊かさを表現したかったのです。そしてアルバムの最後では、彼女のいろんな曲の要素を融合して、人生の歩みをたどれるような曲“グレコ、あなたを忘れない”を作って彼女に捧げました」

 アコーディオンやピアノやギター等からなる小編成バンドの小粋な演奏にのって、クレールは抑制のきいた端正な歌声でグレコの歌を時を超えたものにしている。

 


LIVE INFORMATION
来日公演〈パリ、愛の歌~魅惑のフレンチ・シャンソン〉
2022年9月25日(日)NHK大阪ホール
2022年9月27日(火)京都コンサートホール 大ホール
2022年9月28日(水)新潟テルサ
2022年9月29日(木)長野 ホクト文化ホール
2022年9月30日(金)神奈川 ひらしん平塚文化芸術ホール 大ホール
2022年10月4日(火)神奈川 よこすか芸術劇場
2022年10月5日(水)神奈川 相模女子大学グリーンホール 他 全国14公演
出演:クレール・エルジエール/ドミニック・クラヴィク(ギター) 他
https://www.min-on.or.jp/play/detail_200072_.html