サンジェルマン・デ・プレのミューズから届いた“merci”!
50年代後半から60年代前半にかけて、パリのセーヌ川左岸のサンジェルマン・デ・プレといえば、ニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジと並んで、文化発信の中心地として世界の耳目を集めた街だった。カフェではマルグリット・デュラス、シモーヌ・ド・ボーヴォワール、ジャン・ポール・サルトル、ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、ロジェ・バディム、メルロ・ポンティらが森羅万象について談笑していた。ジャン・コクトーやジャック・プレヴェールやピカソが現われることもあった。
写真家のロベール・ドアノーが撮った地下クラブ「タブー」の写真は実存主義者の若者たちのたまり場の存在を世界に知らせる。そこでトランペットを吹いていたボリス・ヴィアンは、フィリップスのディレクターとなって、マイルス・デイヴィスに『死刑台のエレベーター』の音楽を担当させる。画面の一部への演奏場面の引用ではなく、サウンドトラックの主役をジャズメンが手がけたのはこれが最初である。そのマイルスをボリスに紹介したのがサンジェルマン・デ・プレの女神と呼ばれたジュリエット・グレコだった。
女優として芝居やジャン・コクトーの映画『オルフェ』に出演していたグレコは、50年代から60年代にかけて歌手としても時代の申し子になる。シャルル・ゲンスブールをはじめ彼女が曲をとりあげて後押ししたソングライターも多い。彼女はステージからの引退を声明して、6月には日本にもやって来るが、それに合わせて発表されたのがこのベスト・アルバムだ。
収録されているのは、サンジェルマン・デ・プレのテーマ曲とも言うべき《あとには何もない》をはじめ、初期の《私は日曜日が嫌い》《そのつもりでも》《ラ・ジャヴァネーズ》から、ファンに捧げる新録の 《メルシー》まで。彼女のために書かれた曲もあれば、シャンソンのスタンダードもある。反骨の精神がこめられたアルトの歌声。アレンジも素晴らしい曲ぞろいだ。
LIVE INFORMATION
ジュリエット・グレコ ラストツアー Merci!
○6/1(水)19:00開演 会場:Bunkamuraオーチャードホール
○6/3(金)18:00開演 会場:横浜みなとみらいホール
○6/5(日)15:00開演 会場:東京国際フォーラム ホールC
www.tbs.co.jp/event/juliette-greco/