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録音開始は97年、〈ハワイの夜〉に誘うアルバム

――それでは、ニュー・アルバム『Night』の話をしましょう。このコンセプトはいつ頃、どのように生まれたのでしょう?

「2004年に〈夜〉のアルバムを作れる曲が幾つかあると気づいた。そのプロトタイプがそこにあったけど、まだ曲が足りなかった。それからそこに合う曲を見つけていった。長い年月がかかったね。アルバムがひとつの命を持って呼吸するようになるまでには時間がかかる。曲が揃っても、曲順を決めるまでさらに時間がかかる。特に歌詞のないインスト音楽は抽象的だから、曲順などに一層の注意を払わなくちゃいけない」

――〈夜〉のアルバムという方向を指し示した特定の曲はあったのでしょうか?

「たぶんハワイの2曲だろう。録音は97年までさかのぼる。自作の4曲が書かれたのはずっと後なんだ」

――ハワイの曲が〈夜〉を連想させたんですか。多くの人はハワイと聞くと、太陽の明るい光を思うでしょう。

「スタジオで録音しているとき、ハワイの昼間の光景を思い浮かべたことはないね。そもそも僕はビーチに遊びに行こうなんて一度も考えたことない人間なんだよ。

“Pua Sadinia (Not To Be Forgotten)”は、2017年にデイヴィッド・ネイプが書いた曲で、今は亡き偉大なスラックキー・ギタリストのレイ・カーネが僕らのレーベルに録音してくれた。ずっと好きだった曲だ。

“Wahine Hololio”は80年代にケオラ・ビーマーの演奏で知った。ハワイの夜に連れていってくれる」

『Night』収録曲“Pua Sadinia (Not To Be Forgotten)”“Wahine Hololio”

――どちらもスラックキー・ギターの曲をピアノに置き換えたんですね。

「或る日スタジオで、ピアノで録音してみようかとふと思いついてやってみた。あらかじめ編曲を考えて練習したわけじゃない。曲はギターで既に知っていたわけだから、ピアノでそれを演奏してみただけで、あとで聞いてみたら、うまくいっていると思えたし、他の曲とも合うとも思った」

 

作曲家になりたいなんて一度も思ったことない

――アルバムの幕開けは自作で、“Beverly”という女性の名前が付いています。

「かつてほんの短い時間会っただけの人だ。雨が降っていて、車で送ってあげた。覚えているのはそれだけ。遠い記憶というやつだね。たぶん84年の想い出で、2009年にそのおぼろげな印象から曲が生まれた」

『Night』収録曲“Beverly”

――作曲をしようとしているのでなく、時々突然ひらめくように曲ができるといつも説明してくれますね。

「そう。コードを書き留めておいて、1、2日後に弾いて、そこに何か特別なものがあるかを見てみる。あるときもあれば、ないときもある。曲にはならず、他の曲のイントロなどに流用することもある。

他の人がどうやって作曲するのか知らないし、知りたくもない。だって、僕は作曲家になりたいなんて一度も思ったことないからね。そういったことはランディ・ニューマンのような専門家にまかせたい。

でも、ごく稀に起こるんだ。で、ああ、結構良い曲じゃないか、アルバムやショウのどこかで使えるかな、とね。年に数回かな。そういったことが起こるのは良いことだけど、僕には他人の曲を学ぼうと努力し、それを成し遂げることの方が嬉しい。他人の曲だと、良い曲だとわかるんだけど、自分の曲だと、本当に良い曲かどうか、自分では決してわからないからね」

――ハリケーン・カトリーナからの復興支援アルバムを作るなど、これまでにもニューオーリンズの音楽への愛情を明らかにしてきましたが、今回は大ファンのアラン・トゥーサンの“Freedom For The Stallion”を取り上げました。

「好きなアランの曲はたくさんある。ピアノのインストにして、うまくいく曲もいかない曲もあるけど、あの曲はとてもうまくいった。中間部には少し即興を入れたんだ」

『Night』収録曲“Freedom For The Stallion”

――親しい友人だったんですよね?

「プロフェッサー・ロングヘアの死後、遺族のためにベネフィットをやったんだけど、それをきっかけに連絡を取り合うようになった。よく電話したけど、彼はいつもピアノの前にいるようだった。素晴らしい人間で、素晴らしい作曲家で、彼のすべてが素晴らしかったね」

――“Blues For Richard Folsom”は個人的な思い入れのある曲のようですが。

「僕の友だちが、彼の若くして亡くなった友人に捧げて書いた曲だからね。これは歌詞にも夜が出てくる、まさに夜の歌だ。原曲はギターと歌だけなんだけど、僕は左手でピアノ弦をミュートして右手で弾く奏法を用いている。これはアルバムのなかで最も即興的な演奏だね」

『Night』収録曲“Blues For Richard Folsom”

――夜のアルバムということで、テンポの速い曲や激しいリズムの曲はなく、一貫した雰囲気を持つ一方で、単調になる危うさもあったと思いますが、そのミュート奏法による異なったピアノのサウンドを数曲で用いたのが良い効果をもたらしています。

「確かに単調にならないように気を付けた。いつも以上に曲順を考えたね。

それと、夜のアルバムといっても、真夜中から朝7時くらいまでの時間の経過がある。終盤に“Dawn”(〈夜明け〉)という曲があって、続く“花”で締め括られる。あれは日の出の曲だ。沖縄に新たな日をもたらす日の出なんだ」

『Night』収録曲“Dawn”