レナード・コーエンやローラ・ニーロのカヴァーも!
満天の星の下で聴きたい、ニュー・アルバム

 ジョージ・ウィンストンは、人気曲“あこがれ”を含む80年の『オータム』など、故郷モンタナの四季にインスパイアされた一連の牧歌的なピアノ・ソロ・アルバムで有名だが、それは彼の音楽の一部でしかない。ロック・バンドのドアーズやアニメ「ピーナッツ」の音楽でも知られるジャズ・ピアニスト、ヴィンス・ガラルディの曲集から、ニューオーリンズ音楽の伝統に捧げたハリケーン・カトリーナからの復興支援アルバムまでの多彩な作品を発表してきたし、コンサートではありとあらゆる米国音楽が奏でられる。そこにはジャズ、クラシック、現代音楽、ニューオーリンズR&B、カントリー、ハワイのスラック=キー・ギター、アイリッシュ、果ては沖縄音楽までがあり、ロック・バンドやシンガー・ソングライターの曲がピアノ・インストに姿を変える。だから、誤解を恐れずに言うと、ジョージはライ・クーダーなどにも近い。フォーク音楽やワールド・ミュージックに強い興味を持ち、謙虚に学びながらも、その再現ではなく、自分の刻印をくっきりと押した作品に生まれ変わらせるのだ。

GEORGE WINSTON 『Night』 Dancing Cat/RCA/ソニー(2022)

 そんなジョージの3年ぶりの新作『ナイト』は表題通りに夜を舞台にすることで、季節4部作のようなアルバム一枚を通しての統一感と、幅広い嗜好を反映した選曲を両立させた。まさに満天の星の下で聴きたい美しい旋律の自作4曲に、アラン・トゥーサンやローラ・ニーロ他のカヴァー、それにスラック=キー・ギターの演奏で覚えたものをピアノで弾いたハワイの曲などで構成される。個人的にニヤリとさせられたのはロッド・テイラーの73年のアサイラム盤からの曲だ。ジョージとの会話は常に楽しく脱線するのだが、20年前の初インタヴューで大いに盛り上がったのが、彼の友人でもある、この知る人ぞ知るシンガー・ソングライターの話だった。

 〈夜〉のアルバムゆえ、テンポの速い曲や激しいリズムの曲はなく、一貫した雰囲気の一方で、単調になる危うさもあったろうが、数曲で弦のミュート奏法を効果的に用いてピアノから異なるトーンを引き出し、生前に作者レナード・コーエンが禁止令を出したほど世に無数のカヴァーが溢れる“ハレルヤ”では最も低い音域を弾く左手が他の曲とは異なった響きを作り出すなど、巧みに変化をつけた。

 また、夜の暗闇はやがて明るい朝を必ず運んでくる。終盤には“ドーン”、つまり夜明けを描く曲もあって、喜納昌吉の“花”を導き、その希望を感じさせる陽ざしのような曲がアルバムを締め括る。“花”は来日公演でもよく演奏されてきたし、11年の東日本大震災の後、筆者がモーガン・フィッシャーらと始めた〈アーティスツ・サポート・ジャパン〉にも、この曲を弾くヴィデオを送ってくれたのだった。