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Photo by Nick Fancher

〈ロックなミューズ〉が再び戻ってきた『Will Of The People』

では、通算9作目であり2020年代初のアルバムとなる今作『Will Of The People』はいったいどうなっているのか。簡単に言えば、商業的には成功しながらも大きなシフトチェンジが物議を醸した『Simulation Theory』をリセットし、〈ロックなミューズ〉が再び戻ってきた作品だと言えよう。そういう意味では『Absolution』や『Drones』期を思い起こさせつつ、単なるある時期への回帰的な印象はまったくない。これまでにさまざまな音楽性を打ち出し培ってきた幅広い感覚があってこその多彩な作品なのだ。さらに、ここにきてバンドとしての体幹をさらに鍛え直したかのような圧倒的にフレッシュな強度を誇っている。

冒頭曲“Will Of The People”は『Drones』の“Psycho”を思わせるグラマラスなハードロックでありながら、若返りを感じる陽のエネルギーに溢れたエンパワーメントソング。

『Will Of The People』収録曲“Will Of The People”

“Liberation”はさんざん引き合いに出されてきたクイーンを、これまでのキャリアのなかでもかなりダイレクトにオマージュしている。

『Will Of The People』収録曲“Liberation”

フロントマンのマシュー・ベラミーが「ミューズ史上もっともヘビーな曲」だと言う“Kill Or Be Killed”は、ストレートなニューメタルサウンドあり、ミューズらしいエモーショナルなメロディーあり、さらに怒号のようなシャウトに官能的なギターソロまで飛び出す曲。

『Will Of The People』収録曲“Kill Or Be Killed”

ミューズ流超攻撃的プログレッシブメタルコアとでも呼びたくなる“Won’t Stand Down”と併せて、彼らが向き合ってきたヘビーロックの粋を思いっ切り極めにかかっている。

『Will Of The People』収録曲“Won’t Stand Down”

さらに80年代の情景が浮かぶエレクトロポップにロックのパワーを注入した“Compliance”や“You Make Me Feel Like It’s Halloween”など、まるでシングル集のような明快さとバラエティーに富んだラインナップだ。

『Will Of The People』収録曲“Compliance”“You Make Me Feel Like It’s Halloween”

ラストの2曲“Euphoria”と“We Are Fucking Fucked”では、そんな今作らしさ、ひいてはミューズらしさを凝縮して展開する。さらに“Euphoria”のサウンドとメロディーの疾走感は、80年代ポップやエモを現在のリバイバル的な視点から捉え両者を重ね合わせているかのよう。

『Will Of The People』収録曲“Euphoria”

“We Are Fucking Fucked”のプログレッシブロックを圧縮したような短尺でのめくるめくビートの展開は、モダンなポップのトレンドを意識しているのではないかと感じた。そして、これだけの濃厚な内容を10曲37分という史上もっとも短い時間内に収めているところも、サブスクリプション時代に合わせたことなのかもしれない。自分たちのルーツという根っこや積み重ねてきたキャリアを見つめ直したうえでの、〈現在進行形のロックアルバム〉が今作『Will Of The People』なのだ。

『Will Of The People』収録曲“We Are Fucking Fucked”