これまでにグラミー賞を2度も受賞し、6作連続で全英アルバムチャートの1位を獲得している、UKが世界に誇るロックバンド、ミューズ。彼らから待望の新作『Will Of The People』が届けられた。エレクトロポップ路線を推し進めていた時期もあった3人だが、今回はこれまででもっともヘビーなロックに挑戦し、よりドラマティックなサウンドを展開。危機の時代に立ち向かうリリックもあいまって、非常に力強い作品になっている。そんな『Will Of The People』でのキャリア、そして本作が表現しているサウンドとメッセージについて、DJ/ライターのTAISHI IWAMIがアツく綴った。 *Mikiki編集部
唯一のスタイルを築き世界最大のロックバンドになった2000年代
ミューズが99年にリリースしたデビューアルバム『Showbiz』は、本国UK産のロックが持つ物憂げな表情や、USのハードロックやオルタナティブロックが持つダイナミズム、美しき激情に溢れた独特のメロディーなどのマッチングが個性的な作品だった。
そして2000年代に入りそのポテンシャルが爆発する。2000年代は、ざっくりと言えば、オルタナティブロックやインディーロック、ニューメタルやエモ、ポップパンクといったさまざまなサブジャンルやムーブメントがひしめき合い、ロックが沸きに沸くも、後期にはその流れに陰りが見え始めた激動の時代。そのなかで、ミューズはブームに左右されることのない異色で異次元な唯一のスタイルを築き上げ、押しも押されもせぬ世界でもっとも大きなロックバンドの一つになっていった。
権力者の横暴に対する怒りや文明の発展に感じる危惧が原動力になっている、己や聴き手を鼓舞するようなメッセージ。オルタナティブロック、ハードロックやヘビーメタル、プログレッシブロックなどのレガシーや、同時代のロックやエレクトロ、クラシックやジャズなどの要素も果敢に採り入れながら、新世界や新秩序の創造を目指しているような覚醒作用に満ちたサウンド。そんな魅力とオリジナリティーを、ミューズはアルバム毎に拡張していく。
『Showbiz』の粗削りな初期衝動を受け継ぎながら壮大なサウンドスケープを描き上げた、『Origin Of Symmetry』(2001年)は世界にその名を知らしめるきっかけとなった。
そして、ロックバンドとしての強度を増し、オーケストラを導入するなどアレンジの幅も大きく広げ、現在に繋がるスタイルを確立させた『Absolution』(2003年)、エレクトロやポップミュージックのダンサブルなグルーブとロックのシナジーで世界を揺らせた『Black Holes And Revelations』(2006年)、エレクトロ路線を推し進めながらより大胆にオーケストラによるサウンドを鳴り響かせた『The Resistance』(2009年)で、3作続けて全英ナショナルチャートの1位を獲得する。
ロック不遇の時代に爪痕を残した2010年代
やがてロックの勢いが減退していく2010年代以降も、ミューズ節は世界に大きな爪痕を残し続けた。『The 2nd Law』(2012年)では『The Resistance』で展開したエレクトロやファンクをさらに突き詰め、引き続きクラシックにもアプローチ。ダブステップにもチャレンジするなど、ダンスミュージックとの同時代性も強く感じる多様な作品に。
そして2015年にはここまでで広げてきた音楽性をシェイプし、ハードロック/ヘビーメタルやプログレッシブロック色を強めた『Drones』をリリースした。続く『Simulation Theory』(2018年)は、これまでどんな方向性に向かいながらも担保してきたギターロックバンドとしての側面を大きく削ぎ落とし、ベースミュージックやエレクトロポップに接近しながら非ロック的なビートを多用。
2000年代以上にそれぞれの装いが異なる作品をリリースしながらも、3作すべてが全英1位に輝いた。