本場の聴衆をも唸らせるフラメンコ・ギターの兄弟デュオ。いざ発進!

 感情をそのまま音楽にしたようなフラメンコ・ギターは聴く者の心に共鳴し、そして時に身震いするほどの感動を与えてくれる音楽だ。本場スペインから遠く離れた日本からも、多くのギタリストが彼の地に渡り、フラメンコの魂を受け継いできたが、徳永健太郎・康次郎によるユニット〈徳永兄弟〉もそういった才能の一角だ。新潟を拠点に活動するフラメンコ・ギタリストである父・徳永武昭のもとで子供の頃からフラメンコに浸って育った2人。ごく自然にギタリストへの道を歩んできたという。

健太郎「物心つく前から家の中はフラメンコで一杯でしたし、父の現場やレッスン風景を見て育ちました。英才教育を受けたわけではなく、自然に親しんできたんです。父が弾いているのを見て僕も子供用のギターを手にするようになりました」

康次郎「母も踊り手なのでフラメンコは家族内のひとつの交流ツールみたいなものでした。最近父から聞いたのは、僕は難しいことをやらせようとするとすぐ怒ったようで(笑)。思い返せば確かにすぐ文句を言っていた気がします(笑)。それでも父は無理にやらせようとはしませんでした」

 ロマの音楽として生まれ受け継がれるフラメンコはファミリーの絆を強く感じさせる文化でもあるが、徳永一家はその精神をそのまま受け継いでいたといえるだろう。中学を卒業すると兄・健太郎はスペインに渡り、続いて弟・康次郎も追いかけるようにスペインへ。これは本人たちの行動力だけでなく、両親の理解がなければ出来ることではない。

健太郎「日本との往来もありましたが、15歳から8年くらいですか。弟が来てからは2人暮らしをしていました」

 異国の地で兄弟ふたりきり。日々お互い競い合っていたのだろうと思ったら、そこは本場スペイン。それどころではなかったという。

健太郎「(スペインの)セビージャにいたときは、周囲に同世代のギタリストがものすごく沢山いるので、もはや僕等だけの世界ではなくて、刺激だらけで毎日学ぶことに必死でした」

康次郎「2015年くらいから拠点を日本に移しました。日本には同世代は少ないので、今度はお互いに影響し合ったり、2人でアイデアを出し合って曲を作ったりすることが増えました」

 やがて凄腕の兄弟ギタリストとして日本のフラメンコ界で知られるようになった2人はインディーズでアルバムを4枚リリース。そしていよいよ本作『NEO FLAMENCO』でメジャーデビューを果たす。驚いたのは収録曲にフラメンコの伝統曲がなく、スティングやピアソラ、そしてビゼーの“カルメン”といったよく知られたメロディと、ライヴで練り上げてきたオリジナル曲が並んでいるところだ。

徳永兄弟 『NEO FLAMENCO』 コロムビア(2022)

健太郎「これまでよりも多くの人に聴いてもらえると思ったので、ストレートなフラメンコで押すのではなく、親しみのある曲でテクニックの格好良さを感じてもらい、魅力を伝えたいと思ったんです」

康次郎「よく知られている曲をフラメンコ調にアレンジして弾くと、逆に良さが浮かび上がってくると思っています」

健太郎「今までもポップスから童謡、アニメ曲など、なんでもカヴァーしてきましたが、今回はちょっと大人向けの曲を意識して選びました」

 いわば入門編だが、フラメンコをこよなく愛する二人が日和った演奏を収めるわけがない。全てに様々なフラメンコ・ギターのスタイルやテクニックがぎっしりと詰め込まれている。例えば大胆なアレンジを施したチック・コリアの“スペイン”だと……

健太郎「ティエントとシギリージャを混ぜています。でもテーマ部分はフラメンコではなくパーカッションのモイセさんの提案で凄くオリジナルなスタイルになりました」

 聴けば理解してもらえると思うが、ともかく全て熱量が高く、スタイリッシュで格好良い。これなら夏フェスの大観衆だって納得させられる気がするのだが。

康次郎「FUJI ROCK FESTIVALには出てみたいですね。他に各地でやっているジャズフェスには合うでしょうね」

健太郎「フェス系、いいよね(笑)」

 


徳永兄弟 (Tokunaga Brothers)
幼少期より父・徳永武昭のもとフラメンコギターを始める。中学卒業後スペインへ渡りセビージャのクリスティーナヘレンフラメンコ芸術学院に入学。3年間で全課程修了しその後同学院の講師として数年間在籍。日本フラメンコ協会新人公演奨励賞ギター部門を兄弟共に2年連続受賞。兄はスペインのセビージャにてCertamen Andaluz Flamencos アンダルシアフラメンコギターコンクール準優勝。弟は2019年にスペインのバルセロナでの国際コンクールで決勝進出し4位に入賞。その他国内外で様々な受賞歴を持つ。その後、〈100年に一度の原石〉と称され日本とスペインを行き来し様々な舞台にて活躍。

 


LIVE INFORMATION
結成10周年 徳永兄弟コンサートホールツアー2022
フラメンコギター・コンサート「NEO FLAMENCO」

2022年11月30日(水)愛知・名古屋 電気文化会館
開演:18:45
出演:徳永健太郎&徳永康次郎/KAN(パーカション)
2022年12月2日(金)東京・浜離宮朝日ホール
開演:19:00
出演:徳永健太郎&徳永康次郎/KAN(パーカション)
2022年12月14日(水)新潟・りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館
開演:19:00
出演:徳永健太郎&徳永康次郎/KAN(パーカション)
2023年4月1日(土)大阪・ザ・フェニックスホール
開演:18:45
出演:徳永健太郎&徳永康次郎 ほか
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