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自由自在に世界を旅する映像職人――未来に伝えたい地球音楽プロジェクト

 俳優とは、自分の心の中を真っ白にし、それでいて客観的な視点を失うことなく、自分ではない他の何かの魂を第3者に届ける、まるでメディア(媒体)のような存在なのかも……。そんなことをこの本を読みながら思った。

 そう解釈すれば、自分以外の人間を舞台や映画で演じることと、旅で出会った異国の文化や音楽の真髄をドキュメンタリーや本にして届けることを、一人の俳優が実現させても、そこにまったく矛盾はない。

山口智子 『LISTEN.』 生きのびるブックス(2022)

 「LISTEN.」は、俳優:山口智子のライフワークと言っていい壮大なプロジェクト。テーマは〈その風土に根づいた暮らしから生まれ得た唯一無二の音楽の素晴らしさを、自分の納得いく形で未来に伝える〉。

 山口は、過去多数のテレビのドキュメンタリー番組などに出演し世界中の素晴らしいものに触れながらも、それがどんどん消費され消えてしまうテレビの世界に疑問を覚えたと語る。そして雑誌の取材で日本の職人たちを訪ね全国を取材でまわるうちに「自分は映像の職人になりたい」「自分で動かなくてはダメだ、自分の責任で制作しよう」と一念発起して立ち上げたのがこの企画なのだそうだ。彼女はプランを立て、下調べをし、コーディネイトや通訳、撮影アシストも自らこなす。結果、当プロジェクトはBS朝日で放送する映像ドキュメンタリーとなり、2010年から手がけた取材は26ヶ国、撮り溜めた写真は約20,000枚、収録した演奏は250曲以上に及ぶ。

 音楽を収録する理由は、彼女によれば「音楽はそこの風土と暮らしに育まれる、唯一無二の形だ」ということ。そして「音の中には人間が旅して出逢い、融合し、どう生き抜いてきたか、壮大な物語が潜んでいる」とも。

 今回書籍となった「LISTEN.」では制作日記の他、インタヴューや鮮やかな写真も多数掲載。ヨーロッパの辺境から、中央アジア、南米、北極、インドまで続く彼女の旅を追いかける。各地で収録された世界的アーティストの演奏動画へのリンクも多数掲載。自らの好奇心のままに世界を飛び回る山口智子のワクワク感が、この本からは溢れだしているのだ。