〈ヒップホップ分離派〉を自認するレジェンダリーな奇才ラッパーが、dj hondaとのタッグでアルバムを完成! 『RAPATTACK』に貫かれた唯一無二の美意識とは?

 竜吟虎嘯(りょうぎんこしょう)という四字熟語がある。意味は後述するが、身体をくねらす竜はTWIGY、獰猛な虎はdj hondaといったところか。2人のレジェンドによるタッグ・アルバム『RAPATTACK』は、まさにこの四字熟語が当てはまる作品だ。

 本作の制作は2021年4月。hondaが拠点にする札幌のスタジオにTWIGYが赴き、約2週間で一気に吹き込んだものがベースとなり、楽曲はほぼレコーディング順に並んでいるそうだ。歌詞は、約10年ぶりのアルバムとして話題になった前作『WAKING LIFE』完成後に書かれたもの。2年ほど前からTWIGYの中にチャージされていた言葉たちだという。

 「言いたいトピックスが何パターンかあって、それを自分の中で区分してる感じ。『WAKING LIFE』のリリックスにマッチしたビートメイカーはFogたちだった。一方、クラシックなヒップホップに乗せたいと思っていたのが今回の内容だったんだよね。そのときにhondaさんがバッチリだった」。

TWIGY 『RAPATTACK』 GOD INK(2022)

 全体的にチルでメロウなトーンだった前作『WAKING LIFE』から一転、今作は攻撃的で挑発的。ヒリヒリしたスリルとビリビリする緊張感が張り詰めている。

 「〈Rugged & Raw〉というか。hondaさんによって剥き身のままに出されたなという感じ。リリックスはTWIGY節だけど、乗っけるエナジーみたいなものはhondaさんの音に乗せてるから、そういうケミストリーが生まれたのかもしれない」。

 相乗効果が生まれたdj hondaとの作業をTWIGYはこう振り返る。

 「俺は全部自分でやりたいタイプなの。作ってくれた音をラップに合わせて変えたりするし、声を重ねることも好きだし、声で曲を完成させるという意識が強い。でも、今回、俺は音に関して一切言ってない。最初は声を重ねようと試みたんだけど、hondaさんが全部一本に絞っちゃうの。〈いや、一本でいいよ〉みたいな。〈うわ、これハードコアだ! NYシットだ!〉って。最初はそのスタイルに戸惑ったけど、〈この音にはこういう声だ〉って馴染んできて。それがヒリヒリ感というか、研ぎ澄まされたように感じるんだと思う」。

 〈食らえ、回るベロ、リリカルウェポン〉とスピットするタイトル曲や、同調圧力へのアンチテーゼを唱える“WOKE AF”。CDボーナストラックの“D.I.S”では、〈ダセえ(D)印象(I)操作(S)ふかす〉など、フレーズの要所要所の頭文字をDISにするギミックも交えながら辛辣な言葉で口撃を畳みかける。

 「『WAKING LIFE』も攻撃的なんだよ。ただ乗せ方と言葉の選び方が違うだけ。俺が作るリリックスは、何のことを言ってるのか、誰のことなのか……そこにフォーカスしないというか、フォーカスしようとすればするほど遠ざかるみたいな曲を作るのがTWIGYだと思うから。前作は夢の中と夢の外の境目くらいのところに位置している感じで作りたかった。今回はもうちょっと生々しくしたかったし、はっきりわかりやすい言葉を選んでる。それこそ92年から95年くらいまでの、TWIGYのやり方を考えながら作ってたラップ」。

 その92年から95年といえば、TWIGYがMICROPHONE PAGERに在籍していた時期だ。原点回帰という思いもあるのだろうか。

 「単純にみんながトラップばっかりになったから、もっとソウルフルなものを作りたくて。あと、いまはみんなビートが早いし、ラップも倍速で早い。その流れにちょっと引いてきて、こういうBPMが遅いヒップホップを作りたいと思ったんだよね」。

 時流や風潮に対する反発・抵抗・逆行。そこにTWIGYというラッパーの美学がある。

 「あまのじゃくだからね(笑)。おもしろくないんだもん。ブーンバップとかトラップとかドリルとか呼び方はいろいろあるけど、くだらないというか、どうでもよくて。音楽の形態でしかないんだから。スーツを着る日もあれば、カジュアルな格好のときもある。それと同じように捉えているんだよね。人によっては〈これはヒップホップじゃねえ〉とか言うけど、俺が考えていることはその枠外。そこに囚われていること自体がおもしろくない」。

 みんなと同じじゃつまらない。簡単に言えばそういうことか。

 「つまらないことはない。おもしろいよ。どれを聴いてもおもしろいんだけど、それが入ってきちゃった時点で〈TWIGY〉が変わっちゃうと思うから。何かしらの影響を受けるし、そうあってはいけないという思いがずっとある。クリムトが保守的な芸術からの脱却をめざしてウィーン分離派を作ったように、俺はもう〈ヒップホップ分離派〉なんだよ。言ったら、それがいちばん〈ヒップホップ〉だと思うしね」。

 我が道を行く。己を貫く――そんなTWIGYは、dj hondaを「似たもの同士」だと語る。

 「hondaさんも好きなことをやって生きてる人だなって思うし、自分のこだわりがずっとある人。だから、変なことはしないっていう安心感があるよね。狙ったり、媚びたり、迎合したりしないから信用できる」。

 冒頭の〈竜吟虎嘯〉は、〈吟〉は鳴くこと、〈嘯〉は吠えることを表す。竜が鳴けば雲が湧き立ち、虎が吠えれば風が生じるといわれることから、同じ考えや心を持った者は互いに通じ合うという意味を持つ。まさにこれは今回の両者の関係だ。

 また〈竜吟虎嘯〉は、天空に轟く竜虎の叫びのように、人の歌声や楽器の音色が空に響き渡る様子も意味する。今回2人の言葉とビートがあげた咆哮も、エピゴーネンの溢れる現代社会にずっしりと重く轟き渡ることだろう。

左から、dj honda×SIMON JAPの2022年作『GOLDEN AGE』(J.ACE LAVEL)、12月14日にリリースされるキングギドラのニュー・シングル“Raising Hell”(ARIOLA JAPAN)