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ドイツが誇る豊穣派ジャズ・トランペッター。風情に満ちた珠玉のクリスマス・アルバムをリリース

 エモーショナルなトランペット/フリューゲルホーン演奏を聞かせるだけでなくかつては自らも歌うことで、偉人チェット・ベイカーの名前を形容に出された成熟のジャズ・アーティストがティル・ブレナーだ。1971年生まれの彼は、米ヴァーヴからアルバムを出すなど世界的な評価を得てきたドイツ人だ。

TILL BRÖNNER 『Christmas』 Masterworks/ソニー(2021)

 そんな彼の新作はその表題にあるように、クリスマス・アルバムである。材料となるのは様々な属性を持つ、優しい旋律を持つクリスマス・ソング群。それら親しみやすくも優美な楽曲をブレナーはジャズをジャズたらしめる機微のもと、聞き手に届ける。それらは荘厳だったり豊穣なムードを出していて気付きにくいが、このアルバムはブレナーとピアニストとベーシストのたった3人で録音されている。特別仕立てで豪華さや華を盛る傾向にあるクリスマス・アルバムが多いなか、このシンプルな設定は例外と言えるだろう。だが、すぐ隣で音を出しているようなブレナーたちの生理的に澄んだ演奏は確かな味わいと余韻で聞く者を包み込む。なるほど、しっかり自信が形になっている。うち一つはヴォーカル・バンバーで、ジャズ作も出しているドイツ人シンガー・ソングライターのマックス・ムツケがヴィンス・ガラルディ作のスヌーピー関連クリスマス曲を味わい深く歌っている。

 ところで、アルバム・デビューして30年が経とうとするブレナーはクリスマスを祝う表現で定評を得ている人物だと指摘できるだろう。直近の来日公演は2019年の師走にブルーノート東京で行われたが、その公演名は〈ベター・ザン・クリスマス〉と付けられていた。この『クリスマス』に参加しているダブル・ベース奏者のクリスチャン・フォン・カプヘンクストを音楽監督に据えたそれは、本作につながる瀟洒なエンターテインメント精神にやはり溢れるものだった。また、ブレナーは2007年にも 『The Christmas Album』というホリデイ・アルバムを出したこともあ った。そうしたこれまでの積み重ねも 、ここには十全に活かされているはずだ。